制度のしくみ

確率論的リスク評価(PRA)

原子力発電所で起こりうる事故の筋道を網羅的に洗い出し、それぞれが起こる頻度を数字で見積もる方法です。原発の審査では、国が必ず想定させる事故の型に漏れがないかを確かめる道具として使われます。結果は「1炉年あたり10のマイナス5乗」のような頻度で表します。

更新日:2026.09.10

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確率論的リスク評価(PRA)とは

確率論的リスク評価(PRA:Probabilistic Risk Assessment)は、事故の出発点になる出来事から、安全機能がそれぞれ働いたか失われたかの組み合わせをたどり、炉心の損傷などに至る筋道ごとに発生頻度を積み上げて評価する方法です。代表的な指標が炉心損傷頻度で、単位は「/炉年」(原子炉1基を1年運転したときの頻度)です。

新規制基準は二段構えになっています。まず国が「必ず想定する事故シーケンスグループ」を条文の解釈で決め、事業者はそれぞれに対策を用意します。そのうえで個別プラントのPRAを行い、決められた型に含まれない有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケンスグループが見つかれば、想定に加えます。PRAは、想定に漏れがないかを確かめる役目を担っています。

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押さえておく3つの言葉

起因事象

事故の出発点になる出来事です。配管の破断による冷却材の喪失(LOCA)や外部電源の喪失、地震による機器の損傷などがあたります。

事故シーケンス(グループ)

起因事象のあと、どの安全機能が失われて炉心損傷に至るかの筋道です。似た筋道をまとめたものを事故シーケンスグループと呼び、「全交流動力電源喪失」「崩壊熱除去機能喪失」のように名前が付いています。

炉心損傷頻度

炉心の著しい損傷に至る筋道の頻度を合計したものです。1.0×10のマイナス5乗/炉年なら、原子炉1基を10万年運転して1回程度という尺度になります。仮定とデータから計算した見積もりで、将来を言い当てる予言とは性格が違います。

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レベル1とレベル2、内部事象と外部事象

原子力規制委員会の「実用発電用原子炉の安全性向上評価に関する運用ガイド」は、事業者に「レベル1PRA 及びレベル2PRA を内部事象及び外部事象を対象に実施する」ことを求めています。レベル1は炉心の著しい損傷に至る筋道と頻度を扱い、レベル2はその後に原子炉格納容器が壊れて放射性物質が出る筋道を扱います。

内部事象は、機器の故障や操作の誤りなど発電所の中で起きる出来事です。外部事象は地震や津波などです。地震のPRAでは、揺れの強さごとの年超過確率(ハザード)と、揺れに対する建物・機器の壊れやすさ(フラジリティ)を組み合わせて事故シーケンスの頻度を求めます。そのため、国の地震評価が変わってハザードが見直されると、PRAの結果も動きます。

運用ガイドは対象を段階的に広げるとしており、今後検討していく事象の例として、内部溢水と内部火災、地震と津波の重畳、使用済燃料貯蔵槽で起きる事象、多数基で同時に起きる事象を挙げています。

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新規制基準で必ず想定する事故の型

「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」の第37条は、炉型ごとに必ず想定する事故シーケンスグループを列挙しています。

必ず想定する事故シーケンスグループ(第37条の解釈)
BWR(沸騰水型)PWR(加圧水型)
高圧・低圧注水機能喪失2次冷却系からの除熱機能喪失
高圧注水・減圧機能喪失全交流動力電源喪失
全交流動力電源喪失原子炉補機冷却機能喪失
崩壊熱除去機能喪失原子炉格納容器の除熱機能喪失
原子炉停止機能喪失原子炉停止機能喪失
LOCA時注水機能喪失ECCS注水機能喪失
格納容器バイパス(インターフェイスシステムLOCA)ECCS再循環機能喪失
格納容器バイパス(インターフェイスシステムLOCA、蒸気発生器伝熱管破損)

そのうえで解釈は、個別プラントについて「内部事象に関する確率論的リスク評価(PRA)及び外部事象に関するPRA(適用可能なもの)又はそれに代わる方法で評価を実施すること」を求め、上の表に含まれない有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケンスグループが抽出されれば追加するとしています。有意かどうかは、表の事故シーケンスグループと炉心損傷頻度又は影響度の観点から同程度であるか等から総合的に判断します。

格納容器の側も同じ構造です。雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損)、高圧溶融物放出/格納容器雰囲気直接加熱、原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用、水素燃焼、格納容器直接接触(シェルアタック)、溶融炉心・コンクリート相互作用の6つを必ず想定し、PRAで追加すべき破損モードがないかを確かめます。

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ハザードが変わると結果も動く(島根3号の例)

2026年9月10日の第1435回審査会合で、中国電力は島根原子力発電所3号炉のPRAについて、地震・津波のハザードを最新の知見で見直した影響を説明しました。和久羅山断層と日本の活断層総覧に関する知見を地震ハザードに反映し、秋田県(2013)の波源モデルを津波ハザードの検討対象から外したものです。

地震PRAの炉心損傷頻度は4.5×10のマイナス6乗から5.3×10のマイナス6乗/炉年に、津波PRAは1.2×10のマイナス7乗から1.4×10のマイナス7乗/炉年になりました。内部事象を含むプラント全体では9.6×10のマイナス6乗から1.0×10のマイナス5乗/炉年です。中国電力は「新たな起因事象の発生や緩和機能の機能喪失に至る損傷モード及び損傷設備の追加はない」として、新たに追加すべき事故シーケンスグループはないと結論づけました。

数字は動いても、審査で見るのは事故の型が増えたかどうかです。ハザードの見直しは、フラジリティ評価のうち現実的な応答の評価より先の工程に影響し、損傷加速度の中央値が変わります。地震ハザードの評価で専門家の関与の度合いを示すSSHACレベルについては、基準地震動の解説で整理しています。

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審査のあとも使い続ける

PRAは許可を得たら終わりではありません。運用ガイドは、事業者が行う安全性向上評価のPRAを原則として5年ごとに改訂するよう定めています。5年を過ぎた日以後、最初の定期事業者検査の終了後1年以内に行う安全性向上評価の際に改訂し、大規模な工事などで結果が変わることが見込まれる場合にも改訂します。

規制の見直しにも使われています。原子炉を止めずに行う運転中保全では、リスクの大きさをPRAで測り、米国原子力規制委員会(NRC)のRegulatory Guide 1.174 Rev.3が定める領域のうちRegion III(非常に小さな変化)に相当することを確かめています。

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読むときに確かめること

どの範囲の数字か

内部事象だけか、地震・津波を含むか。レベル1(炉心損傷)か、レベル2(格納容器の破損)か。島根3号の1.0×10のマイナス5乗は、内部事象を含むプラント全体の炉心損傷頻度です。

数字より事故の型

新規制基準でPRAが問うのは、必ず想定する型に含まれない有意な事故シーケンスグループがあるかどうかです。頻度が少し上下したことだけで安全性の結論が変わるわけではありません。

前提が変われば結果も変わる

ハザード、機器の故障率データ、設備の構成が変われば結果は動きます。資料では、何を見直した結果の数字なのかを先に確かめます。