制度のしくみ

基準地震動

原子力発電所の耐震設計が「どれくらいの揺れに耐えるか」を決める出発点です。敷地の地下深くにある硬い岩盤の上での揺れとして定めます。国の地震評価が新しくなると事業者は評価をやり直し、規制委員会が審査します。

更新日:2026.09.09

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基準地震動とは

基準地震動は、原子力発電所の耐震設計の前提に置く地震の揺れです。「この揺れが来ても安全機能を失わない」と設計するための基準になります。原子力規制委員会は「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(2013年6月19日制定、直近改正は2022年6月8日)を参照しながら、設置許可基準規則とその解釈に適合するかを判断します。

大事なのは、揺れを地表で測らない点です。基準地震動は解放基盤表面という仮想の面での揺れとして定めます。解放基盤表面とは、表層や構造物が無いものとして仮に置く自由表面で、著しい高低差がなく、ほぼ水平で相当な広がりを持つ基盤の表面をいいます。ここでいう基盤は、せん断波速度がおおむね毎秒700メートル以上の硬質地盤で、著しい風化を受けていないものです。より深いところにある毎秒3,000メートル程度以上の地層は地震基盤と呼び、別の概念になります。

岩盤の上で定めるのは、地表の揺れが表層の土の性質で大きく変わるためです。基準地震動を岩盤で決めておき、そこから建物の位置まで揺れが伝わる経路を別に評価して入力地震動を求めます。

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2種類の地震動を相補的に考える

基準地震動は、性格の違う2つの地震動を組み合わせて決めます。片方だけでは足りないという考え方で、審査ガイドは両者を「相補的に考慮する」と定めています。

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動

どこで起きるかが分かっている地震です。内陸地殻内地震、プレート間地震、海洋プレート内地震の3つの発生様式ごとに、敷地に大きな影響を与えると予想される地震を検討用地震として複数選び、それぞれ評価します。

震源を特定せず策定する地震動

いくら詳しく調べても、敷地の近くで起きうる内陸地殻内の地震をすべて事前に把握できるとは言い切れません。そこで調査結果にかかわらず、すべての敷地で考慮する地震動を置きます。過去に震源と活断層を結びつけられなかった地震の、震源近傍の観測記録が土台になります。

後者はさらに2種類に分かれます。「全国共通に考慮すべき地震動」は、断層の破壊が地震発生層の内部にとどまり国内のどこでも起こりうる、地表地震断層が出現しない可能性がある地震(モーメントマグニチュード6.5程度未満)を対象にします。「地域性を考慮する地震動」は、事前に活断層の存在が指摘されていなかった地域で発生し、地表付近に一部の痕跡が確認された地震(同6.5程度以上)を対象にします。

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断層の連動は距離で機械的に決めない

検討用地震を選ぶとき、隣り合う活断層が一緒に動く「連動」をどこまで見込むかが結果を左右します。審査ガイドは長大な活断層について、断層の長さ、地震発生層の厚さ、断層傾斜角、1回の地震の断層変位、断層間相互作用(活断層の連動)に関する最新の研究成果を十分考慮するよう求めています。

2026年9月9日の第31回原子力規制委員会で報告された第6回地震・津波部会(7月7日開催)では、この点が正面から議論されました。規制庁は現在の審査ガイドについて「距離を基準とした画一的な判断は採用せず、変動地形学的調査、地形・地質調査及び地球物理学的調査の結果から総合的に判断する」と説明し、実際の審査では断層の構造や連続性、地震の発生状況を確認しながら個別に判断していると述べています。委員からは、令和6年能登半島地震を踏まえると、隣接する断層の傾斜方向が異なることや最近の地震活動をもって連動を否定する考え方は通じないとして、幅広い検討を求める意見が出ました。

同じ部会では、新たに認定された富山トラフ横断断層について、柏崎刈羽原子力発電所の影響評価で能登半島北岸断層帯等との連動を考慮した結果、「地震動評価・津波評価ともに限定的であり、富山トラフ西縁断層が連動する場合よりも小さかった」と報告されています。

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評価の手法は2つ、超過確率も参照する

検討用地震ごとに、2つの手法で揺れを評価します。応答スペクトルに基づく地震動評価は、地震の規模と距離から経験式を使って揺れの大きさを求める方法です。断層モデルを用いた手法は、震源断層の破壊の広がり方を計算で再現する方法です。震源が敷地に近く、破壊の過程が結果を大きく左右する地震では、断層モデルを用いた手法が重視されます。

応答スペクトルに基づく基準地震動が全周期帯にわたって断層モデルによる基準地震動を有意に上回る場合は、前者で代表させることができます。策定した基準地震動は、最新の知見や震源近傍で得られた観測記録によって妥当性が確認されます。

あわせて超過確率を参照します。策定した地震動の応答スペクトルがどの程度の超過確率にあたるかを、地震ハザード解析による一様ハザードスペクトルと比べて確認する手続きです。ここでは専門家の意見の相違をロジックツリーとして表すため、複数の専門家の情報を集めます。専門家の関与の度合いを段階で示すのがSSHACレベルで、影響や見解の相違が小さければレベル1、大きくなるほどレベル4に近づき、参加する専門家の数と手順が増えます。

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耐震重要度分類と弾性設計用地震動

基準地震動が決まると、施設ごとに求める耐震性能が決まります。施設は3つのクラスに分かれ、クラスごとに地震力の大きさが変わります。

耐震重要度分類と静的地震力の係数
クラス対象静的地震力の係数(建物・構築物)
Sクラス原子炉を停止し炉心を冷却する機能を持つ施設、自ら放射性物質を内蔵する施設、事故時の影響を緩和する施設、これらを支援する施設、地震に伴う津波による安全機能の喪失を防ぐ施設3.0
Bクラス安全機能を有する施設のうち、機能喪失した場合の影響がSクラスと比べて小さい施設1.5
CクラスS・B以外で、一般産業施設や公共施設と同等の安全性が求められる施設1.0

もう1つ、弾性設計用地震動という基準があります。基準地震動が「壊れないこと」を確かめる揺れであるのに対し、弾性設計用地震動は「材料が弾性の範囲にとどまること」を確かめる揺れです。基準地震動との応答スペクトルの比率が目安として0.5を下回らない値で、工学的な判断にもとづいて設定します。Bクラスの施設で共振のおそれを検討するときは、弾性設計用地震動に2分の1を乗じた地震動を使います。機器・配管系の静的地震力は、建物・構築物の係数から求めた水平震度と鉛直震度をそれぞれ20%増しにして計算します。

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国の評価が変わると審査をやり直す

基準地震動は一度決めたら終わりではありません。地震調査研究推進本部の地震調査委員会が長期評価を新しく出すと、事業者はそれを反映して地震動評価をやり直し、設置変更許可を申請します。

実例が九州電力玄海原子力発電所3・4号機です。「日本海南西部の海域活断層の長期評価(第一版)」の公表を受けて2024年7月25日に申請し、2度の補正を経て2026年9月2日の第30回原子力規制委員会で許可が決定しました。対馬南西沖断層群と第1五島堆断層帯の連動、白島沖断層帯と福智山断層帯の連動が新たに考慮され、敷地に影響を及ぼす地震は既許可の15地震から18地震に増え、基準地震動にSs-7が追加されています。

基準地震動は津波の評価とも連動します。同じ長期評価の反映で基準津波も変更され、玄海では最大水位上昇量1.30メートル、最大水位下降量0.84メートルが定められました。地震と津波はセットで見るのが実務です。

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読むときに確かめること

「Ss-◯」の番号は積み上がる

基準地震動はSs-1、Ss-2と番号が振られ、新しい知見を反映するたびに追加されます。番号が増えたかどうかで、評価がやり直されたかが分かります。玄海はSs-7の追加でした。

加速度の数値は場所を確かめる

ガル(cm/s2)の数字は解放基盤表面の値です。建物の位置での揺れとは違います。津波の高さも同じで、沖合の定義位置の水位変動量と、敷地に届く高さは別の数字です。

連動の有無は個別判断

断層が近いから連動する、離れているから連動しない、という機械的な結論は出ません。調査結果からの総合判断なので、申請ごとにどの連動を見込んだかを読む必要があります。