何を認める規定か
連邦電力法(Federal Power Act)の202条(c)は、合衆国法典では16編824a条(c)に置かれています。緊急事態に際して、設備の一時的な接続と、発電・供給・融通・送電を命じる権限を定めた規定です。条文上の主語は「委員会」ですが、実際にはエネルギー省へ委任されており、命令はエネルギー長官の名前で出ます。
電力の世界では珍しい種類の権限です。市場の価格や事業者の判断に委ねず、国が名指しで「この設備を動かせ」と命じます。米国の系統運用機関や電力会社が申請し、エネルギー省が判断して出すという流れが通例です。
発動の要件
戦争か、4種類の不足か条文は発動できる場面を具体的に書いています。1つ目は米国が交戦している戦争の継続中です。2つ目以降は、次のいずれかを原因とする緊急事態が存在すると判断した場合です。
| 原因 | 読み方 |
|---|---|
| 電力需要の急激な増加 | 猛暑や寒波による需要の跳ね上がりが典型です |
| 電力の不足 | 供給力そのものが足りない状態です |
| 発電または送電の設備の不足 | 設備が足りない、または使えない状態です |
| 発電用の燃料または水の不足 | 燃料切れや渇水を指します |
| その他の原因 | 上の4つに収まらない事情も対象に含めています |
「その他の原因」という受け皿が置かれているため、要件は実質的に広く読めます。実際、2026年夏に出た命令は猛暑による需要増を理由とするものと、電源が退出しようとしていること自体を問題とするものの両方がありました。
手続きが軽い
条文は「通知、聴聞または報告の有無にかかわらず(with or without notice, hearing, or report)」と書いており、職権でも申立てによっても命令を出せます。事前に相手の言い分を聞く手続きを踏まなくてよいということです。2026年9月3日にカロライナ地域へ出た命令は、デューク・エナジー・カロライナが同じ9月3日に申請し、その日のうちに出ています。
代わりに、あとから調整する仕組みが用意されています。命令を実行するにあたって当事者の間で条件がまとまらない場合、委員会は命令の発効の前後どちらでも聴聞を開き、補充命令で公正かつ妥当と認める条件を定められます。ここには、どちらがいくら支払うかという補償や償還も含まれます。
環境法令との関係
守るために破っても違反にならないこの規定のいちばんの特徴が、環境法令の扱いです。202条(c)には2項と3項が置かれ、環境法令との衝突をあらかじめ想定した書き方になっています。
連邦・州・地方の環境法令の要件と衝突しうる命令については、緊急事態への対応と公益に必要な時間だけに限って発電・供給・融通・送電を求めることとし、可能な限り環境法令と整合させ、環境への悪影響を最小化しなければならないと定めています。
命令に従うために必要な作為・不作為は、自発的に従った場合を含めて、環境法令の違反とはみなされません。事業者が「命令に従えば環境規制違反になる」という板挟みに陥らないようにするための規定です。
報道や公表資料で「環境許可の制限を一時的に緩める命令」と表現されるのは、この2項と3項の効果を指しています。許可そのものを書き換えるかわりに、命令に従った分を違反として扱わないという構成です。
2026年夏の3件
2026年9月の第1週には、猛暑と電源の退出を理由に3件の命令が出ました。同じ規定でも、命令の中身と期間はかなり違います。
| 日付・対象 | 命令の内容 | 有効期間 |
|---|---|---|
| 9月1日/中部大西洋岸(PJM) | 発電ユニットの環境許可の制限を一時的に緩和。必要な場合に大口需要家のバックアップ電源へ運転を指示 | 9月8日まで |
| 9月1日/フロリダ(オーランド公益事業委員会) | スタントン発電所1号機(石炭火力)を運転可能な状態に保つよう指示。同機は2026年6月に前倒しで長期の冷態停止に入る予定だった | 9月2日から11月30日まで |
| 9月3日/カロライナ(デューク・エナジー・カロライナ) | 指定ユニットへの給電と運転の指示を許可。EEA3の宣言前の最終手段として、またはEEA3の期間中にバックアップ電源へ運転を指示することも許可 | 9月3日から9月8日まで |
期間の差に性格が出ています。猛暑への対応である中部大西洋岸とカロライナは1週間以内で切れますが、フロリダは約3か月です。フロリダの命令は、当座の需給を支えるよりも、電源が市場から退出すること自体を止める使われ方をしています。
命令の型は2つある
需給が厳しい期間だけ、特定のユニットを動かす、あるいは非常用発電を動かすよう命じるものです。期間は数日から1週間程度で、猛暑や寒波に合わせて出ます。カロライナと中部大西洋岸の命令がこれにあたります。
閉鎖や長期停止が決まっている電源に対し、その状態へ入らずに運転できる状態を保つよう命じるものです。期間は数か月単位になります。フロリダのスタントン1号機や、2026年11月20日に期限を迎える米エディストン発電所3・4号機への命令がこれにあたります。
命令で動かした分の費用の扱いは、条文上は補充命令で定められる補償・償還の問題になります。退出阻止型では、本来なら閉じていた設備の維持費を誰がどう負担するかが論点として残ります。
日本にあてはめると
日本には、国が名指しで発電所の運転を命じ、あわせて環境法令の免責まで与える仕組みはありません。供給力が足りなくなるおそれがある場面では、電力広域的運営推進機関による供給力の融通指示、需給ひっ迫注意報・警報、小売電気事業者への節電の呼びかけといった手段が使われます。いずれも、動かす設備を国が名指しするものではありません。
退出を止める側では、日本も制度を整えつつあります。2026年8月31日の第6回電力安定供給ワーキンググループでは、出力10万キロワット以上の電源について、休廃止の予定日の12か月前までに事前協議を求める省令案が示されました。ただしこれは、退出の時期を国が早く把握して調整するための仕組みで、退出そのものを禁じる権限ではありません。米国のほうが踏み込んでいる、という違いになります。
読むときの注意点
同じ202条(c)でも、運転命令型と退出阻止型では意味がまるで違います。記事を読むときは、対象の設備名、命令の内容、有効期間の3点を必ず確認します。
多くの場合、系統運用機関や電力会社が申請し、それを受けてエネルギー省が出します。国が一方的に始めたのか、事業者が求めたのかで、読み方が変わります。
期間を区切って出されるため、期限が来るたびに延長するかどうかが焦点になります。期限日そのものが次のニュースになります。