卸電力市場のスポット市場は、ひとことで言うと、翌日に受け渡す電気を前日に売買する市場です。 日本では日本卸電力取引所(JEPX)がこの市場を運営しており、スポット市場は「一日前市場」とも呼ばれます。 取引の対象は翌日の電気で、1日を30分ごとに区切った48コマです。 つまり、翌日の0時から24時までの電気を、30分単位で前日に取引する仕組みになっています。 JEPXの取引概要と取引規程でも、スポット市場は翌日に受け渡される30分単位の電気を対象とする市場とされています。
この市場は、発電事業者や小売電気事業者が、翌日の発電計画や販売計画を調整するために使われます。 発電側には「余った電気を売る場」、小売側には「足りない電気を調達する場」という役割があります。 卸電力取引所の取引量は、小売全面自由化当初は総需要の約2%程度でしたが、2024年12月時点では約40%にまで拡大しています。
スポット市場の取引は、毎営業日に行われます。 入札の締切は原則として午前10時で、取引会員は取引日の10営業日前から入札できます。 1商品は30分、取引単位と受渡単位は50kWh、価格は0.01円/kWh単位で入力します。 JEPXの取引規程では、入札者は売値または買値、量、受け渡しを行うエリアを指定して入札すると定められています。
価格の決まり方は、スポット市場のいちばん大事なポイントです。 JEPXは、スポット市場をブラインド・シングルプライスオークションで運営しています。 ブラインドとは、入札の時点で他の参加者の注文状況が見えないことを指します。 シングルプライスとは、売りと買いの入札を集めて作った供給曲線と需要曲線の交点で約定価格を決め、その価格で売買を成立させる方式です。 JEPXの取引規程でも、商品ごとに供給曲線と需要曲線を作成し、その交点の価格を約定価格、量を約定量とするシングルプライスオークションによると定められています。
スポット市場では、相手先が見えないままJEPXを介して売買が成立します。 取引規程では、翌日取引の当事者に対して相手方は匿名とされ、受け渡しや代金の授受などはJEPXが仲介すると定められています。 つまり、個別に相手を探して契約するのではなく、取引所に出した注文をJEPXがまとめて約定させる仕組みです。
価格は常に全国一律になるわけではありません。 地域間連系線の制約によって、他エリアへ十分に電気を流せない場合には、市場分断が起きます。 JEPXの取引ガイドでは、日本全国の入札をまとめて計算した価格をシステムプライスとし、連系線制約がある場合には東日本・西日本などに分けて計算し直して、それぞれのエリアプライスを求めると説明しています。 実際の売買は、このエリアプライスで成立します。 つまり、スポット市場では「全国で見た理論上の価格」と「各エリアで実際に成立する価格」が分かれることがあります。
このエリア間の価格差は、そのままリスクにもなります。 そこでJEPXでは、スポット市場のエリア価格差に対応する仕組みとして間接送電権の取引市場も設けています。 JEPXの説明資料では、間接送電権は「エリア間のエリア価格差を受け取る権利、または支払う義務」であり、電気そのものを送る権利ではないとされています。 スポット市場でエリア価格差が生じることを前提に、その値差リスクを扱うための仕組みです。
スポット市場は翌日の計画を決めるための市場である一方、その後に需給がずれることもあります。 JEPXの取引概要では、スポット市場の後に、不測の発電不調や需要急増による需給ミスマッチに対応するための市場として当日市場(時間前市場)が設けられていると説明しています。 つまり、スポット市場は前日段階の計画を作る場であり、当日になってからの微調整は時間前市場で行うという役割分担です。
スポット市場は監視が前提の市場でもあります。 JEPXの取引規程では、相場を変動させる取引や、本取引所外の電力関連取引で利益を得る目的で相場を変動させるような取引などを禁止しています。 電力・ガス取引監視等委員会も、スポット市場に対して日々監視を実施しています。 エネルギー白書2025では、2024年11月12日に、JERAが供出可能な電力を市場に供出しなかった行為について相場操縦に該当すると判断され、業務改善勧告が行われたことが記載されています。 スポット市場は日常的に使われる市場ですが、同時に厳しく監視される市場でもあります。
卸電力市場のスポット市場は、翌日に必要な電気を前日に30分単位で売買する市場です。 発電事業者にとっては余剰電力の販売の場であり、小売電気事業者にとっては不足分の調達の場です。 価格はブラインド・シングルプライスオークションで決まり、連系線制約がある場合にはエリアごとに異なる価格が成立します。 さらに、スポット市場は当日市場や間接送電権市場ともつながっており、監視のもとで運営される、日本の電力取引の中心的な市場です。