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特集 旧一電の地域と経営

会社を知る 第3回 東京電力

東京電力
福島への責任と首都圏の電力供給を続ける経営

東京電力グループの事業分担と歴史、2025年度の決算を紹介。福島第一の廃炉・賠償、柏崎刈羽6号機の再稼働、首都圏の需要増に向けた投資と資金確保を解説します。

公開日:

目次
  1. 1 持株会社と4つの基幹事業会社
  2. 2 大消費地への供給と2011年以降の再編
  3. 3 首都圏の集中した需要と遠隔地の電源
  4. 4 柏崎刈羽の再稼働と電源調達
  5. 5 経常増益と最終赤字が同時に起きた決算(PL)
  6. 6 設備の増加と廃炉費用の見積もり(BS)
  7. 7 営業で得た現金を上回る投資(CF)
  8. 8 廃炉と賠償を続けるための責任と資金
  9. 9 外部との協業と新たな需要への投資
  10. 10 収益改善と福島への対応を両立する条件
  11. 参照資料

東京電力の経営には、首都圏への電力供給と、福島第一原子力発電所事故への責任が深く関わっています。2025年度は経常利益が増えましたが、燃料デブリ取り出しの準備費用などを見直した結果、最終損益は赤字になりました。廃炉と賠償に必要な資金を確保しながら、増加するデータセンター需要に向けて電源と送配電網を整えることが、大きな課題です。

財務の数値は、2025年度(2026年3月期)の連結決算を基本としています。

1 持株会社と4つの基幹事業会社

現在の東京電力グループは、東京電力ホールディングス(HD)を中心とする企業集団です。HDが福島の賠償・復興・廃炉と原子力事業を担い、4つの基幹事業会社が燃料・火力、送配電、小売、再生可能エネルギーを担当します。 〔 資料3 〕 〔 資料7 〕

東京電力グループの主な役割
会社 主な仕事
東京電力ホールディングス 福島への対応、原子力事業、グループの経営戦略
東京電力フュエル&パワー(FP) JERAへの出資を通じた燃料・火力事業
東京電力パワーグリッド(PG) 送電線・変電所・配電線の整備と運用、地域の需給調整
東京電力エナジーパートナー(EP) 家庭・企業への電気やガスの販売、電源調達
東京電力リニューアブルパワー(RP) 水力などの再エネ発電と電源開発

JERAには東京電力FPと中部電力が50%ずつ出資しています。JERAが稼いだ利益は、出資持分に応じて東京電力の利益に反映されます。小売会社EPにとっては、JERAを含む発電事業者から電気を調達し、料金メニューや省エネサービスと組み合わせて販売することが事業の中心です。 〔 資料3 〕

PGは、東京電力以外の小売会社を選んだ利用者にも電気を届けます。首都圏の送配電設備を中立的に運用する役割を持ち、接続工事や停電対応、需給調整を地域全体に提供しています。 〔 資料3 〕

2 大消費地への供給と2011年以降の再編

東京電力は1951年5月に設立されました。高度経済成長で増える需要に合わせて大規模な火力を整備し、1959年には火力の出力が水力を上回りました。1965年には同社初の揚水発電所が動き始め、1971年には福島第一1号機が運転を開始しています。 〔 資料6 〕

経営を変えた主な出来事
時期 出来事 経営との関係
1951年 東京電力の設立 首都圏を中心とする地域の供給を担当
1971年 福島第一1号機の運転開始 大規模な原子力開発が進む
2011年3月 福島第一原子力発電所事故 避難、賠償、廃炉が長期の責任となる
2012年7月 支援機構が優先株を引受け 公的支援の下で経営再建を進める
2016年4月 持株会社制へ移行 送配電・小売・燃料火力を分社化
2019年 燃料・火力事業をJERAへ移管 共同出資会社を通じた事業運営へ
2026年4月 柏崎刈羽6号機の営業運転再開 事故後初めて同社の原子力が営業運転に復帰

福島第一の事故は、会社の資金の使い方、組織、安全管理、地域との関係を変えました。現在も原子力損害賠償・廃炉等支援機構が議決権の過半数を持っています。会社と機構が策定する総合特別事業計画は、電気事業の改革と福島への責任をどう続けるかを定める計画です。 〔 資料1 〕 〔 資料3 〕 〔 資料7 〕

3 首都圏の集中した需要と遠隔地の電源

統合報告書2026では、供給エリア人口を約4,500万人、年間のエリア需要を2,683億kWhとしています。家庭、商業施設、鉄道、オフィス、工場が集まり、電力の安定供給は日々の生活と経済活動に直結します。地中の送電線も多く、都市の建物や道路と調整しながら設備を更新する必要があります。 〔 資料3 〕

大消費地を支える原子力や水力には、消費地から離れた場所の設備が含まれます。福島、新潟などの立地地域との関係と、首都圏への供給は一つの経営の中にあります。発電所の安全性と地域への説明、長距離の送電設備の保守を継続して行うことが必要です。 〔 資料3 〕 〔 資料6 〕

新たに増えているのはデータセンターの接続需要です。2026年3月時点で、PGエリアへのデータセンターの託送申込容量は累計約1,790万kWに達しました。申し込みに合わせて変電所や送電線の工事が必要になりますが、個別計画の確度や稼働時期を確かめて設備投資を進める必要があります。 〔 資料3 〕

電気を供給できる時期は、企業がデータセンターを開業できる時期にも影響します。東京電力グループは、適地の提案、受変電設備の設計、機器調達、施工、脱炭素電力の調達を組み合わせ、早期稼働を支援する方針です。 〔 資料3 〕

4 柏崎刈羽の再稼働と電源調達

柏崎刈羽6号機は2026年4月16日に営業運転を再開しました。原子力を動かすと、その発電分を火力や市場から調達する費用が減ります。統合報告書では、2026年4〜6月期に市場調達を代替したと仮定した場合の収支改善効果を約470億円と試算しています。 〔 資料3 〕 〔 資料5 〕

原子力の運転には、安全対策、設備の保守、核物質防護、使用済燃料への対応が必要です。営業運転を続ける過程でも、設備異常を把握して停止・点検を判断する体制と、その経過を地域に伝える取り組みが求められます。 〔 資料3 〕

RPが持つ水力などの再エネと、JERAを通じた火力・燃料事業は、電源の安定性と脱炭素化に関わります。小売では市場調達、相対契約、自社グループの電源、蓄電池や需要の調整を組み合わせます。時間帯ごとの需要と価格を見て調達する能力が、販売利益に影響する事業です。 〔 資料3 〕

水力では、既存設備の更新によって発電効率を高めています。RPは2026年10月5日、長野県長野市の小田切発電所2号機が、水車・発電機の取り替えを終えて10月2日に営業運転を再開したと発表しました。7月に再開した1号機と合わせ、全2台での運転に戻っています。 〔資料8〕

第五次総合特別事業計画では、2040年度に利用者へ届ける電力の6割を上回る水準の脱炭素電源を確保する方針です。原子力、再エネ、蓄電池などへの投資と、顧客向けの料金・調達契約を合わせて進めます。 〔 資料3 〕

5 経常増益と最終赤字が同時に起きた決算(PL)

連結損益計算書の主な項目(億円)
項目 2024年度 2025年度
売上高 68,103.9 63,285.7
営業利益 2,344.5 3,376.9
経常利益 2,544.4 4,173.3
親会社株主に帰属する当期純利益 1,612.8 −4,542.6

出典: 〔 資料1 〕

営業利益・経常利益・最終利益

2025年度・連結、単位:億円

マイナス プラス
営業利益 3,376.9
経常利益 4,173.3
最終利益 −4,542.6

出典: 〔 資料1 〕

2025年度は販売電力量の減少などで売上が減りましたが、燃料費等調整制度による料金反映の時間差が改善し、経常利益は4,173.3億円に増えました。利益を事業別に見ると、JERAを通じた燃料・火力や送配電は改善し、小売は販売量の減少や調達単価の上昇で減益となっています。 〔 資料1 〕 〔 資料2 〕

最終損益は4,542.6億円の赤字です。災害特別損失9,138億円を計上したことが大きく影響しました。燃料デブリ取り出しの準備方法が具体化し、干渉する設備の撤去や原子炉内部調査など、新たに見込む作業費用を反映したものです。 〔 資料1 〕 〔 資料2 〕 〔 資料3 〕

関電工などの株式売却益1,030億円もありました。電気を販売して得る利益に加え、資産売却や廃炉費用の見直しが年度の最終損益を大きく変えています。廃炉の作業計画が具体化すると、将来必要になる費用を会計上見積もる金額にも変化が生じます。 〔 資料2 〕 〔 資料3 〕

6 設備の増加と廃炉費用の見積もり(BS)

連結貸借対照表の主な項目(金額は億円)
項目 2025年3月末 2026年3月末
総資産 149,869.9 155,756.0
固定資産 125,233.9 132,258.1
建設仮勘定及び除却仮勘定 15,602.1 17,888.7
廃炉等積立金 7,122.1 7,484.7
純資産 37,861.3 34,183.5
自己資本比率 25.1% 21.8%

出典: 〔 資料1 〕

総資産は15兆5,756.0億円です。送配電設備や工事中の設備、関係会社への投資が大きな部分を占めます。建設仮勘定及び除却仮勘定は1兆7,888.7億円に増えました。工事中の設備に支出した資金は、設備が完成して供給に使われるまで、建設仮勘定などに計上されます。 〔 資料1 〕

最終赤字によって純資産は減り、自己資本比率は25.1%から21.8%へ下がりました。負債側では災害損失引当金などが増えています。将来の廃炉支出を見積もって負債に計上する一方、送配電や原子力への設備投資も続くため、財務の余力を確保する必要があります。 〔 資料1 〕 〔 資料2 〕

廃炉等積立金は7,484.7億円です。廃炉に必要な資金を機構に積み立て、計画に沿って取り戻して作業に使う仕組みです。財務を見る際には、電気事業のための設備資金と、長期にわたる廃炉の資金確保が同時に進んでいることが特徴になります。 〔 資料1 〕 〔 資料3 〕

7 営業で得た現金を上回る投資(CF)

キャッシュフロー(CF)は現金の出入りを示します。2025年度は営業活動で5,603.3億円を得ましたが、投資活動では6,636.0億円を支出しました。営業CFと投資CFの合計は1,032.7億円のマイナスです。 〔 資料1 〕

2025年度の連結キャッシュフロー(億円)
項目 金額
営業活動によるCF 5,603.3
投資活動によるCF −6,636.0
財務活動によるCF 1,104.3
期末の現金及び現金同等物 9,366.8
事業・投資・資金調達による現金の動き

2025年度・連結、単位:億円

マイナス プラス
営業活動によるCF 5,603.3
投資活動によるCF −6,636.0
財務活動によるCF 1,104.3

出典: 〔 資料1 〕

固定資産の取得による支出は9,090.1億円でした。株式などの売却による収入を得ても、送配電設備や発電設備に必要な支出が多く、営業活動だけで投資資金を賄えていません。財務CFは社債や借入などによって1,104.3億円の収入となりました。 〔 資料1 〕

五次総特では、原則3年以内に約2,000億円規模の資産売却を進め、2028年以降のフリーキャッシュフロー黒字化を目指しています。資産売却で資金を確保しつつ、継続的な事業収入を増やして必要な投資を賄う計画です。 〔 資料3 〕

8 廃炉と賠償を続けるための責任と資金

福島第一の廃炉では、燃料デブリの取り出し、使用済燃料プールからの燃料取り出し、汚染水対策、廃棄物の管理が並行して進みます。2号機では試験的なデブリ取り出しから、本格的な取り出しに必要な装置・工法の検証へ進んでいます。1号機では大型カバーの設置を終え、ガレキ撤去などを進めています。 〔 資料3 〕

デブリの分布や周辺設備の状態を調べ、被ばくや放射性物質の拡散を抑えられる装置を設計するため、調査結果を次の工程へ反映する作業が続きます。工事を担う人材の確保、作業員の安全、地元企業との協働も廃炉事業の実行力に関わります。 〔 資料3 〕

グループは賠償・廃炉のために年間5,000億円程度の資金確保を目指しています。2025年度の一般負担金・特別負担金・廃炉等積立金による資金捻出額は5,577億円でした。被害を受けた人への賠償と、安全に廃炉を進める費用を長期に確保するため、電気事業の収益改善が求められています。 〔 資料3 〕

避難や事故の影響は今も続きます。請求者の事情に応じた賠償、地域の生業の回復、廃炉の進捗と測定結果の公開を続けることが、東京電力の事業運営に伴う責任です。 〔 資料3 〕

9 外部との協業と新たな需要への投資

2026年1月の五次総特は、廃炉事業の改革、需要増に対応した安定供給と事業成長、財務改善、外部企業との提携を重点課題にしています。東京電力は資金・技術・事業運営能力を補う協業相手を募集し、候補企業との協議を進めています。 〔 資料3 〕

首都圏で需要が増える場所に送電線や変電所を整えるには、機器の調達と工事を担う人材が必要です。データセンターの立地情報を早い段階で把握し、設備を整備する順序を決めることが、供給開始を早めるための課題になります。 〔 資料3 〕

顧客側には、供給量に加えて電気料金の安定と脱炭素電力への需要があります。東京電力グループは、電源の長期契約や料金メニュー、使用時間の調整などを組み合わせて応える方針です。販売を増やした際に必要になる調達費用や送配電投資も含めて、採算を管理する必要があります。 〔 資料3 〕

10 収益改善と福島への対応を両立する条件

2026年4〜6月期は売上高1兆4,812.0億円、経常利益114.3億円、最終損失97.9億円でした。8月13日の決算短信では、中東情勢などによる燃料価格の不透明さから通期業績予想を未定としています。柏崎刈羽6号機の再稼働後も、小売の調達費用などを含めたグループ全体の収支管理が続きます。 〔 資料4 〕

今後の経営を判断する材料は、廃炉工程の具体化と費用見積もり、柏崎刈羽の安全な運転、データセンターへの供給工事、営業CFと投資CFの改善です。首都圏の需要に応える投資を進めながら、福島への支払いと作業を継続できる資金を確保することが、東京電力に求められています。

参照資料

  1. 資料1 東京電力ホールディングス 2026年3月期決算短信

    2026年4月30日。表紙、本文pp.13–20。連結PL・BS・CF、資本構成、災害特別損失。

  2. 資料2 東京電力ホールディングス 2025年度決算概要(訂正版)

    2026年4月30日。本文pp.2–8。事業別増減要因と特別損益。

  3. 資料3 TEPCO 統合報告書2026

    本文pp.3、8–11、20–26、37–39、63–70、90–92。事業構成、需要増、五次総特、廃炉と賠償の資金。

  4. 資料4 東京電力ホールディングス 2027年3月期第1四半期決算短信(期中レビュー完了版)

    2026年8月13日。表紙。2026年4〜6月期の業績と通期予想の公表状況。

  5. 資料5 柏崎刈羽原子力発電所6号機の営業運転について

    2026年4月16日。営業運転再開の確認。

  6. 資料6 TEPCO Corporate Information:History

    公式沿革。1951年設立、火力・原子力開発、2011年事故、2012年の支援機構による優先株引受け。

  7. 資料7 会社分割・ホールディングカンパニー制への移行の認可

    2016年3月29日。2016年4月の持株会社化と基幹会社への事業移管。

  8. 資料8 東京電力RP 小田切発電所2号機の営業運転再開

    2026年10月5日発表。10月2日の営業運転再開、水車・発電機の取り替え、1・2号機の運転。