目次
北陸電力は、地域の豊かな水資源と産業の発展を背景に生まれた会社です。水力発電所を数多く持ち、石炭火力などを組み合わせて電気を供給してきました。現在は能登半島地震と奥能登豪雨からの復旧を続けながら、老朽化した火力の更新と志賀原子力発電所の再稼働に取り組んでいます。利益を蓄えて財務を改善してきた中で、七尾大田火力2号機の停止が供給と収支に影響しています。
財務の数値は、2025年度(2026年3月期)の連結決算を基本としています。
1 地域の産業界が求めた電力会社
北陸電力は1951年5月1日に設立され、本店を富山市に置きます。発足に至る経緯には、北陸の電力供給を地域の会社で担おうとする産業界・経済界の意向がありました。戦後の再編では北陸を中部に組み込む案もありましたが、初代社長となる山田昌作らの働きかけによって、北陸を独立した供給地域とする会社が誕生しました。 〔 資料2 〕
現在、北陸電力本体は発電と小売を担当し、2020年4月に事業を開始した北陸電力送配電が電線や変電所の運用を担っています。発電所の電気を販売する事業と、地域にある各小売事業者の電気を公平に届ける事業で役割が分かれています。 〔 資料1 〕 〔 資料2 〕
グループは情報通信、設備の建設・保守、環境・リサイクルなどにも事業を広げています。2025年8月には北陸電気工事が連結子会社から持分法適用会社へ変わりました。この変更は、2025年度の売上高と総資産が減った理由の一つです。 〔 資料1 〕
2 水力開発から電源の多様化へ
会社の前身には、1898年創業の富山電燈など、地元資本の電力会社があります。豊富な河川水を利用した電源開発が進み、鉄鋼、カーバイド、繊維工業などの立地につながりました。電気を多く使う産業と電力会社が、ともに発展してきた地域です。 〔 資料2 〕
| 時期 | 出来事 | 経営との関係 |
|---|---|---|
| 1951年 | 北陸電力の設立 | 地域独自の電力会社として発電・送配電・小売を担う |
| 1954年 | 神通川第一発電所の運転開始 | 河川の水資源を電力供給に利用 |
| 1964年 | 富山火力1号機の運転開始 | 需要増に応じて火力を整備 |
| 1981年 | 有峰第一発電所の運転開始 | 貯水池を活用した大規模水力開発 |
| 2006年 | 志賀原子力2号機の運転開始 | 電源と燃料調達先を分散 |
| 2018年 | 富山新港LNG1号機の運転開始 | LNGによる高効率発電を導入 |
| 2024年 | 能登半島地震・奥能登豪雨 | 送配電設備と発電設備の復旧が大きな経営課題に |
水力は燃料を輸入せずに発電できる一方、降雨や積雪によって発電量が変わります。需要の増加に対応する過程で火力を増やし、石油危機後には燃料を分散するために石炭や原子力を開発しました。こうした歴史が、現在の水力・火力・原子力の設備構成につながっています。 〔 資料2 〕
3 水資源と工場需要、復興する地域の電力
北陸では、水力発電のための河川・貯水池と、工場や都市の需要を結ぶ設備が長年にわたり整備されてきました。既設の水力発電所を更新して出力や発電効率を高めることは、地域の資源を使い続ける投資になります。北陸電力は2026年3月末時点で132か所、合計194.3万kWの水力発電設備を持っています。 〔 資料2 〕
2025年度の小売販売量は247.8億kWhで、前年度から2.2%増えました。家庭などの電灯需要は暖冬で減りましたが、工場など向けの電力販売は契約電力の増加によって伸びました。卸販売も増え、総販売量は331.6億kWhとなっています。 〔 資料1 〕 〔 資料3 〕
能登では住宅や事業所の復旧、道路整備、復興まちづくりに合わせて電気設備を整え直す必要があります。停電を解消するための応急対応が済んだ場所でも、電柱の建て替えや設備の本復旧は続きます。北陸電力グループは自治体の復興計画に合わせて工事を進めており、地域の暮らしと事業の再開に直結する仕事です。 〔 資料3 〕
4 水力と石炭火力が担う供給
2025年度は志賀1・2号機が停止したまま、水力、火力、他社からの調達を組み合わせて供給しました。自社水力の発電量は61.1億kWh、火力は190.6億kWhでした。水力が増発する年は、燃料を使う火力や購入電力の費用を抑えやすくなります。 〔 資料3 〕
| 区分 | 電力量 | 供給上の役割 |
|---|---|---|
| 自社水力 | 61.1億kWh | 河川水や貯水池を利用。出水量で発電量が変わる |
| 自社火力 | 190.6億kWh | 石炭・LNGなどを使い、需要と再エネの変動に対応 |
| 自社原子力 | 発電なし | 志賀1・2号機が停止中 |
| 他社受電 | 101.5億kWh | 他社電源や市場から電気を調達 |
七尾大田と敦賀の大型石炭火力は、供給力と費用の両面で重い役割を持ちます。発電所が計画外で止まると、別の火力を動かしたり市場から電気を買ったりする対応が必要になります。2025年度には七尾大田2号機などの停止があり、同機の停止による経常利益への影響を会社は約40億円の減益要因と説明しています。 〔 資料1 〕 〔 資料3 〕
志賀2号機は新規制基準への適合性審査が続いています。能登半島地震で得られた知見を地震・津波の評価や安全対策に反映する必要があります。会社は審査対応と地域への説明を進めています。 〔 資料3 〕
5 販売量が増えても減収減益となった理由(PL)
| 項目 | 2024年度 | 2025年度 |
|---|---|---|
| 売上高(営業収益) | 8,582.8 | 7,865.5 |
| 営業利益 | 1,010.3 | 874.6 |
| 経常利益 | 913.6 | 850.1 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 651.5 | 544.7 |
| 支払利息 | 73.8 | 85.1 |
出典: 〔 資料1 〕
2025年度・連結、単位:億円
- 営業利益 874.6
- 経常利益 850.1
- 最終利益 544.7
出典: 〔 資料1 〕
2025年度は販売量が増えたものの、燃料費調整による収入や容量確保契約金額が減り、売上高は7,865.5億円となりました。電力会社の売上には、販売量と販売単価の両方が作用します。燃料価格の低下が料金に反映されると、販売量が増えていても売上が減ることがあります。 〔 資料1 〕
経常利益は850.1億円でした。販売量の増加と水力の増発が利益を増やした一方、設備関連費の増加と七尾大田2号機の停止が減益要因となりました。発電・販売事業は増益でしたが、送配電事業では修繕費が増え、その他事業では北陸電気工事の連結除外などが影響しました。 〔 資料1 〕 〔 資料3 〕
最終利益は544.7億円です。福井火力三国1号機の廃止決定に伴う87.4億円の損失を特別損失に計上しました。老朽設備の退出は将来の維持費を減らす判断である一方、廃止を決める年度には設備の価値を見直す損失が生じます。 〔 資料1 〕
6 自己資本を回復しながら電源を更新する(BS)
| 項目 | 2025年3月末 | 2026年3月末 |
|---|---|---|
| 総資産 | 18,598.3 | 18,420.7 |
| 固定資産 | 14,281.6 | 14,741.5 |
| 建設仮勘定及び除却仮勘定 | 1,909.3 | 1,749.6 |
| 負債合計 | 14,589.8 | 13,907.6 |
| 純資産 | 4,008.5 | 4,513.0 |
| 自己資本比率 | 20.5% | 24.4% |
出典: 〔 資料1 〕
純資産は4,513.0億円に増え、自己資本比率は20.5%から24.4%へ改善しました。利益の蓄積によって財務の余力が増し、有利子負債の減少によって負債合計も減っています。総資産の減少には、北陸電気工事が連結対象から外れた影響が含まれます。 〔 資料1 〕
2026年3月末の固定資産は1兆4,741.5億円です。水力の更新、送配電設備の復旧、原子力の安全対策などに資金を使いながら、次の大規模投資となる富山新港LNG2号機も準備しています。支払利息は前年度の73.8億円から85.1億円に増えており、投資額と借入条件の管理が収支に関わります。 〔 資料1 〕 〔 資料2 〕
7 投資支出の縮小と借入・社債の返済(CF)
キャッシュフロー(CF)は、実際に出入りした現金の流れです。2025年度は営業活動で得た現金が投資活動の支出を上回り、社債償還などの資金にも充てられました。 〔 資料1 〕
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 営業活動によるCF | 1,174.6 |
| 投資活動によるCF | −485.7 |
| 財務活動によるCF | −579.1 |
| 期末の現金及び現金同等物 | 929.8 |
2025年度・連結、単位:億円
- 営業活動によるCF 1,174.6
- 投資活動によるCF −485.7
- 財務活動によるCF −579.1
出典: 〔 資料1 〕
営業CFは1,174.6億円、投資CFは485.7億円の支出でした。投資CFの支出は前年度の2,340.7億円から大きく減っています。会社は投融資による支出が減少したことなどを理由に挙げています。設備工事の進み方に加え、投融資や資産回収の動きも年度の資金需要を左右します。 〔 資料1 〕
財務CFは579.1億円の支出で、社債償還の支出が増えました。期末の現金及び現金同等物は929.8億円です。今後は、復旧工事と電源更新を進めながら、この資金余力をどう維持するかが課題になります。 〔 資料1 〕
8 LNG火力、水力更新、志賀の審査
富山新港LNG2号機は出力63万kW、2033年度の運転開始を予定しています。高経年化した石炭2号機と休止中の石油1号機の廃止に合わせた計画です。2025年度の長期脱炭素電源オークションで落札し、建設費などの固定費を回収する仕組みを活用します。 〔 資料2 〕
水力では、新設と既設設備の更新を並行します。2026年度の会社説明では、2027年度までに新規水力開発を5か所決定し、既設設備の更新などを10か所進める目標を示しました。大規模な新設に加え、既存の河川利用や設備を生かして発電量を増やす方針です。 〔 資料3 〕
七尾大田2号機は2025年12月30日、主変圧器の異常で自動停止しました。会社は雷撃による絶縁破壊を原因と推定し、内部部材の大規模修理と避雷器の強化を進めています。復旧は2027年春頃の見通しです。停止中は他の火力・水力と市場調達で必要な供給力を確保する計画です。 〔 資料5 〕
志賀2号機については、敷地周辺の断層、津波、地震動、プラント設備の審査と安全対策を進めています。火力の稼働確保を当面の供給に結びつけながら、原子力とLNGの将来計画を進める状況です。 〔 資料3 〕 〔 資料4 〕
9 能登の本復旧と災害への備え
能登半島地震と奥能登豪雨では、電柱約5,300本に設備被害があり、このうち約3,300本は建て替えが必要となりました。2025年度末までに約2,200本の建て替えを終えています。残る設備は道路整備や復興まちづくりと調整して復旧するため、電力会社だけで工期を決められない場所もあります。 〔 資料3 〕
地震で道路や通信が同時に損傷すると、作業員の移動、被害の把握、資機材の搬入が難しくなります。会社は震災時の後方支援などを検証し、他地域の電力会社と経験を共有しています。平時から自治体や施工会社と連携し、応援要員が現地で作業できる体制を整えることが、次の災害時の復旧速度に関わります。 〔 資料3 〕
志賀原子力発電所では、震災で得た設備・地盤の知見を審査と対策へ反映し、その結果を地域に説明する責任があります。復興期の住民や事業者が必要とする供給を維持することと、長期の電源計画について信頼を得ることを、継続して進める必要があります。 〔 資料2 〕 〔 資料3 〕
10 当面の停止影響と、その先の投資
2026年4〜6月期の経常利益は291.5億円で、前年同期より18.8%減りました。総販売量は増えましたが、燃料費調整の時間差と七尾大田2号機の停止が影響しています。7月29日時点の2026年度予想は、経常利益350億円、最終利益250億円です。 〔 資料4 〕
北陸電力に求められるのは、足元の供給力を確保しながら、能登の設備を地域の復興に合わせて戻すことです。水力更新で地域の資源を有効に使い、火力の新設・廃止を進めるには、継続的な資金確保も必要になります。 〔 資料2 〕 〔 資料3 〕
今後の変化は、七尾大田2号機の復旧、志賀2号機の審査、富山新港LNG2号機の工事、自己資本と資金収支の推移に表れます。北陸の産業に安定した価格と供給を提供し続けるには、各工事の進捗を供給計画と資金計画に確実に反映することが求められます。
参照資料
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資料1
北陸電力 2026年3月期決算短信・決算の概要(訂正版)
2026年6月5日訂正。PDF pp.2、5–13。連結PL・BS・CF、北陸電気工事の連結除外と増減要因。
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資料2
北陸電力グループ 統合報告書2026
本文pp.4–11、18–25、29–38。沿革、設備、地域との関係、復旧、富山新港LNG2号機。
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資料3
北陸電力 2026年4月30日会社説明会資料(訂正版)
2026年6月5日訂正。本文pp.3–8、11–24、42。販売量、発受電量、利益の増減、復旧と電源計画。
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資料4
北陸電力 2027年3月期第1四半期決算短信
2026年7月29日。表紙、添付p.2。直近業績と2026年度予想。
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資料5
七尾大田火力発電所2号機の復旧見通し
2026年4月28日。停止原因と2027年春頃の復旧見通し。