ブラックスタートとは
大規模停電から系統を立ち上げ直すために、外部からの電気なしで起動できる機能をブラックスタート機能といいます。停電の復旧は、まずこの機能を持つ電源を自力で起動し、そこから送電線をたどって次の発電所へ所内電源用の電気を送り、順に立ち上げていくという順序で進みます。最初の1台がなければ、後続がいくら健全でも動き出せません。
復旧の起点になる設備なので、平常時はほとんど出番がありません。それでも常に起動できる状態を保つ必要があり、設備の維持費、運転員の訓練費、保守・補修費が毎年かかります。この費用を誰がどう負担するかが、制度上の論点になります。
毎年の公募で調達している
ブラックスタート機能は、一般送配電事業者が調整力の公募で調達しています。公平・透明な調達のための考え方は「一般送配電事業者が行う調整力の公募調達に係る考え方」(調整力公募ガイドライン)で示されています。
2030年度向けの公募は、2025年9月から12月に募集要綱案への意見募集と要綱の決定を行い、2025年12月8日に入札募集を開始、2026年6月8日に締め切りました。落札案件の決定は2026年7月13日、契約に係る協議・締結はその翌日から始まっています。調達年度の3〜4年前から手続きが始まる長いサイクルです。
2030年度向けの調達結果
2026年8月28日の第23回制度設計・監視専門会合で、2030年度向けの調達結果の事後確認が報告されました。全エリアで応札案件がすべて落札となる一方、東北エリアで2系統、関西エリアで2ユニットが未達となっています。
| エリア | 平均調達単価 | 調達額 |
|---|---|---|
| 北海道 | 49円/kW | 0.3億円 |
| 東北 | 73円/kW | 0.1億円 |
| 東京 | 3,299円/kW | 155.0億円 |
| 中部 | 1,120円/kW | 16.9億円 |
| 北陸 | 171円/kW | 0.4億円 |
| 関西 | 1,224円/kW | 10.7億円 |
| 中国 | 342円/kW | 4.1億円 |
| 四国 | 248円/kW | 1.7億円 |
| 九州 | 709円/kW | 7.8億円 |
東京の平均調達単価は北海道の約67倍で、調達額も突出しています。事務局はその理由を「BS機能の必要量が大きく、BS契約を実施することで生じる逸失利益(容量市場など)が大きく生じていることに起因している」と説明しました。中部の単価は対象ユニットが確定しておらず送電端出力を特定できないため、想定される最も低い出力で算定した最大調達単価です。
単価が下がって見えるときの読み方
2030年度向けは、名目上の平均調達単価と調達額が前年度向けから大きく減りました。ただしこれは値下がりではありません。応札価格の算定方法を変えたためです。
従来は、契約によって発生する逸失利益のうち容量市場の想定期待利潤にあたる分を、事後的に一般送配電事業者側で反映して精算していました。2030年度向けからは、これを応札段階で応札価格へ反映する方式に変えています。事務局は「実際の調達精算額は、以前から容量市場の想定期待利潤を控除した『評価用入札価格』をもって精算されているため、算定方法変更による実質的な社会コストの低減はない」と注記しました。
年度をまたいで比べるときは、名目の入札価格ではなく評価用入札価格どうしを見ます。2029年度向けの評価用入札価格と2030年度向けを比べると、大きな変動は見られません。
競争が限られる市場をどう監視するか
ブラックスタート機能を持つ電源は限られており、公募は今後も競争が限定的であると想定されています。2030年度向けでは、北海道エリアで旧一般電気事業者以外からの応札・落札がありましたが、その他のエリアでは応札・落札とも全て旧一電からでした。
競争が働かない市場では、不当に高い価格で入札されたり、入札価格の低い電源が正当な理由なく落札されなかったりすると、電気の使用者の利益が損なわれます。そこで2019年10月の第42回と2020年12月の第52回の制度設計専門会合で入札価格の考え方が整理され、2023年10月の第90回会合では、2029年度向け公募から最低支払額にブラックスタート機能の維持コストと応札によって発生する逸失利益を支払う旨を記載することが整理されました。
調達後は、監視等委員会が落札案件の入札価格の考え方を聴取して事後確認を行います。2030年度向けでは落札案件37件のうち6件が、整理された考え方に沿って算定されていました。
2026年8月の変更:複数年契約が認められる
2026年8月26日の第616回電力・ガス取引監視等委員会で、調整力公募ガイドラインの改定が経済産業大臣へ建議されました。ブラックスタート機能を持つ電源などの特定地域立地電源について、まず現行どおり公募で調達し、それでも必要量を確保できなかった場合には、複数年契約を前提とした相対取引による調達を認める内容です。
従来は、複数年契約が「事実上、今後の新規の発電事業者等の参入を排除することとなり、競争を阻害する可能性がある」として、契約期間は長くても1年とすることが望ましいとされてきました。しかし特定地域立地電源では複数回の公募を経ても応札電源がほぼ固定され、新規参入の動きが確認できていません。設備が特定の機能に特化していて他用途へ転用しにくく、単年度契約では投資費用や訓練費、保守・補修費を回収する予見性が立たないためです。一部のエリアでは入札不調も起きていました。
相対取引で調達する場合は、一般送配電事業者が電源等確保の必要性、手段の有効性、契約内容の妥当性を十分に検討することが望ましいとされています。
実務で確認するときの見どころ