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電力市場

中長期取引市場とは

翌日より先の電気を前もって取引し、安定調達と価格見通しを支える新しい市場

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中長期取引市場とは何か

中長期取引市場は、ひとことで言うと、翌日ではなく、もっと先の電気を前もって取引するための市場です。ねらいは、小売電気事業者が中長期で安定的に電気を調達しやすくすること、発電事業者が燃料調達や設備投資の見通しを立てやすくすること、そしてその結果として、電気料金の水準や変動をできるだけ安定させることにあります。国の整理でも、中長期取引市場は、広く参照できる適正で安定的な価格指標の形成に資する市場として整備する方針です。

この市場が検討されている背景には、今の電力市場が短期取引に偏りやすいことがあります。制度設計ワーキンググループでは、スポット市場は価格変動が大きく、価格高騰時には小売事業の休廃止や電気料金の上昇につながりやすいこと、また発電事業者にとっても販売量や収入の予見性が低く、燃料確保や電源投資に悪影響が出るおそれがあることが整理されています。中長期取引市場は、こうした課題への対応策の一つとして位置づけられています。

現在の状況(2026年3月時点)

2026年3月時点では、まだ市場開設前で、制度設計を進めている段階です。2026年3月17日の制度設計WGの取りまとめでは、中長期取引市場を整備する方針と、商品設計、入札、受渡し、決済、監視、運営主体などの基本的な考え方が整理されました。そのうえで、今後は有識者や実務者による検討体制を作って、具体的な制度設計を進めるとされています。さらに2026年3月27日には、来年度に向けて「中長期取引市場検討WG」を新たに設ける方針も示されました。

取引のタイミングと商品設計

市場の設計案としては、取引のタイミングは実需給の3年前と1年前を基本にする方向です。これは、小売電気事業者に求める中長期の供給力確保の考え方と整合を取るためです。2026年3月の資料では、小売事業者に対し、実需給の3年度前に需要の5割、1年度前に7割に相当する量の供給力を確保する方向で検討を進めるとされており、中長期取引市場もその考え方と連動する形で設計されようとしています。

取り扱う商品については、受渡し期間は原則として1年間の商品が基本です。負荷パターンは、3年前に販売する商品ではベース商品を中心にミドル商品も検討し、1年前に販売する商品ではミドル商品を中心に、ベース商品やピーク商品も検討する方向が示されています。また、燃料費調整のような事後調整付き商品を扱う場合でも、各社がばらばらの計算をするのではなく、比較しやすい共通ルールを前提にする考え方です。なお、非化石価値は中長期取引市場では扱わない方向で整理されています。

約定方式と参加者

約定方式は、ザラバ方式を第一に検討する方向です。国の整理では、小売電気事業者が自らの供給力確保義務に柔軟に対応できるよう、取引機会が多く、取引のタイミングや方法に制約が少ない方式が望ましいとされ、その前提でザラバ方式が有力とされています。参加者については、当初は売り手を発電事業者、買い手を小売電気事業者とする方向で整理されています。

エリアをまたぐ取引と市場分断リスク

受渡しの考え方にも特徴があります。エリアをまたぐ取引は認める一方で、連系線をまたぐ受渡しはスポット市場を介して行う方向です。そのため、中長期取引市場でエリアをまたぐ取引をした場合に生じる市場分断リスクは基本的に買い手が負うと整理されています。今後は、間接送電権の活用なども含めて、買い手のリスクが過大にならないよう詳細を詰めることになっています。

売り物確保のための供出義務

この市場を機能させるには、売り物が十分に出てくることも重要です。そのため、少なくとも市場開設から当分の間は、一定規模以上の発電事業者に市場への供出を求める方向が示されています。基準としては、ベースロード市場の考え方を参考に、グループ合算で保有電源の最大出力が500万kW以上の事業者を対象にし、原則として販売電力量の10%について供出を求める案が整理されています。

既存制度との関係

既存制度との関係も大事です。国は、中長期取引市場では発電事業者が固定費と可変費をベースに価格を設定する一方、容量市場の応札価格にも固定費の一部が含まれているため、固定費の二重取りが起きないよう調整が必要だと整理しています。また、ベースロード市場は中長期取引市場が役割を代替できるなら、発展的に解消する方向で進めるとされています。

法改正との関係

最近の制度面の動きとしては、2026年3月24日に閣議決定された電気事業法改正案が重要です。この法案では、今後、安定供給の確保の観点で重要となる中長期市場や需給調整市場を開設する卸電力取引所を、経済産業大臣が指定・監督できるようにする方針が盛り込まれました。これは、中長期取引市場を本当に動かしていくための制度基盤づくりが進み始めたことを意味します。

まとめ

中長期取引市場は、短期市場だけでは不足しやすい「先の電気の安定調達」を支えるための新しい市場です。小売電気事業者には調達の見通し、発電事業者には販売や投資の見通しを与えることが狙いで、商品は当面、実需給の3年前・1年前に取引する1年物を基本に、ザラバ方式での取引が有力とされています。2026年3月時点ではまだ制度設計段階ですが、法改正案や新たな検討WGの設置方針まで進んでおり、いままさに具体化が進んでいるテーマです。

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