グロスビディングとは
大手電力(旧一般電気事業者)は、自社の発電所でつくった電気を自社の小売部門に渡して販売する社内取引を基本としてきました。グロスビディングは、この社内で渡していた電気の一部を、発電部門がJEPXのスポット市場に売り入札し、同じ会社の小売部門が市場から買い戻す形に切り替えた取組です。電気の流れは変わらなくても、取引が市場を経由するため、市場に出回る量(流動性)が増えます。
なぜ始まったのか
価格の指標性を高める
取引量が少ないと、スポット価格が電気の価値を示す指標として使いにくくなります。取引を厚くして価格の信頼性を高める狙いがありました。
国の市場活性化策
資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会の市場活性化の議論を受け、大手各社が2017年から自主的取組として開始しました。
売りと買いを両建てで出す仕組み
発電部門が売り入札を出すのと同時に、小売部門が同程度の量の買い入札を出します。総量(グロス)を市場に通すことからグロスビディングと呼ばれ、余った電気だけを市場に売るネット(余剰)の売買と区別されます。売りと買いの価格が離れると約定量に差が出て損益が発生するため、実際の運用では値差リスクを避けた近い価格での入札が中心でした。
似た言葉との違い
| グロスビディング | 余剰電力の売却(ネット) | 内外無差別な卸売 | |
|---|---|---|---|
| 市場に出す量 | 社内取引分を含めた総量の一部 | 自社販売分を除いた余り | 市場経由に限らず、社外へも社内と同条件で卸す枠組み |
| 性格 | 市場活性化のための自主的取組 | 従来からの一般的な売買行動 | 2020年以降のコミットメント(約束)と国のフォローアップ |
| 現在 | 役割を終え、主要各社は実施していない | 継続 | 継続・強化 |
評価と終了までの経緯
グロスビディングの拡大とともにスポット市場の取引量は増え、全需要の3割前後を占める規模に育ちました。一方で、同じ会社の売りと買いが近い価格で両建てされる取引は、約定価格の形成に与える影響が小さいという評価も監視等委員会の会合で示されました。2020年に旧一般電気事業者の発電部門が社外にも社内と同条件で卸す「内外無差別」のコミットメントを表明し、その実効性を確保する枠組みの整備が進んだことで、グロスビディングは市場活性化策としての役割を終え、主要各社は順次終了しました。
いま確認するときの観点
現在、市場の流動性や新電力の調達環境を支える仕組みは、ベースロード市場、先渡・先物取引、内外無差別な卸売のフォローアップへ引き継がれています。過去の資料や記事でグロスビディングという言葉に出会ったときは、スポット取引量が拡大した2017年度から2020年度前後の文脈かどうか、そして現在は内外無差別の枠組みに置き換わっているという時系列を押さえると読み違えません。