目次
中国電力の事業地域では、瀬戸内海沿岸の工場が多くのエネルギーを使い、山陰や山間部にも送配電網が広がっています。島根原子力発電所2号機が再稼働し、発電費用を改善する一方、3号機や柳井のLNG火力には大きな投資が続きます。工場の電化や燃料転換に対応しながら、建設費を調達し、自己資本を増やしていく段階にあります。
財務の数値は、2025年度(2026年3月期)の連結決算を基本としています。
1 発電・販売を中心に送配電と通信を展開
中国電力は広島を本拠に、発電と電気の販売、燃料調達、エネルギー関連サービスなどを担います。中国電力ネットワークが送配電、エネルギア・コミュニケーションズが情報通信を担当します。 〔 資料1 〕 〔 資料2 〕
| 事業 | 主な仕事 | 経営との関係 |
|---|---|---|
| 総合エネルギー | 発電、電気・ガス販売、エネルギーサービス | 燃料費と電力調達、販売条件、設備投資 |
| 送配電 | 送電線・変電所・配電設備の運用 | 設備更新、地域の需要、需給調整 |
| 情報通信 | 通信回線、企業・家庭向けサービス | 顧客獲得、通信設備とサービスの運営 |
2026年6月には、火力・燃料と需給運用・取引の機能をまとめたパワー・トレーディング本部を新設しました。発電所をいつ動かし、燃料をいつ調達し、電気をどの相手へ売るかを一体で考える体制です。市場価格が動く中で、自社設備と契約の組み合わせを収益に結びつけようとしています。 〔 資料2 〕
2 火力中心の供給に原子力とLNGを加えてきた
1951年に設立された中国電力は、産業と家庭の需要増に合わせて電源を開発しました。1959年には火力の設備容量が水力を上回り、1969年には新成羽川の揚水式発電所が全面運転を始めています。工場の需要を支える大規模火力と、需要に応じて動かせる水力を組み合わせてきました。 〔 資料3 〕
| 年 | 出来事 | 経営との関係 |
|---|---|---|
| 1951年 | 中国電力の設立 | 中国地方の電力供給を担当 |
| 1959年 | 火力設備が水力設備を上回る | 火力を中心とする供給へ |
| 1969年 | 新成羽川発電所の全面運転開始 | 揚水による需給調整 |
| 1974年 | 島根1号機の運転開始 | 原子力を電源に追加 |
| 1989年 | 島根2号機の運転開始 | 原子力の供給力を拡大 |
| 1990年 | 柳井で初のLNG火力が運転開始 | 燃料を分散し発電効率を改善 |
| 2020年 | 中国電力ネットワークへ送配電事業を承継 | ネットワーク運営を分社化 |
| 2024年12月 | 島根2号機が発電を再開 | 原子力による供給と費用削減を再開 |
現在は、島根2号機を運用しながら3号機の稼働準備と柳井の設備更新を進めています。既存設備の保守、新設設備の工事、廃止する設備への対応が並行するため、技術者と工事会社の確保、工程の調整が重要になっています。 〔 資料2 〕
3 瀬戸内の製造業と地域ごとに異なる供給条件
中国地方では、瀬戸内海沿岸に鉄鋼、化学、自動車などの製造業が集まっています。工場内の自家発電を更新する時期や、生産工程の脱炭素化が、電力会社から購入する電気の量を変えます。中国電力は、電炉への転換、LNGへの燃料転換、半導体関連工場やデータセンターの新増設を需要拡大の機会と捉えています。 〔 資料2 〕
2025年度の小売販売電力量は454.2億kWhで、前年度より8.9%増えました。他社販売を含む総販売電力量は568.1億kWhです。既存の地域需要に加えて、個々の顧客への販売拡大が業績に関わります。 〔 資料1 〕
一方、送配電設備は需要の集まる沿岸部から、山陰や人口の少ない山間部まで広がります。工場の新たな大口需要へ対応しつつ、既存の送電線・配電線を保守する必要があります。設備の更新と新設を地域ごとの需要見通しに合わせることが、安定供給と費用の管理につながります。 〔 資料2 〕
顧客の脱炭素化を進めるには、使う電気の環境価値と料金、必要な電力容量、設備を切り替える時期をそろえる必要があります。販売部門、電源部門、送配電会社の連携が、工場の具体的な投資判断を支える仕事になります。
4 島根2号機の効果と火力の役割
2025年度の自社発電量は、火力247.2億kWh、原子力63.2億kWh、水力34.3億kWh、新エネルギー等1.7億kWhでした。島根2号機の設備利用率は87.9%となり、原子力発電量は前年度の19.8億kWhから大きく増えました。 〔 資料1 〕
島根2号機が動くことで、火力の燃料や外部から調達する電気に必要な費用を抑えられます。2026年は2月9日から定期検査を行い、9月16日に営業運転へ移行しました。発電所の利益への寄与には、検査の時期と期間、運転中の設備の状態が関わります。 〔 資料1 〕 〔 資料5 〕
火力は、太陽光などの発電量が変わるときに出力を調整する役割も持ちます。中国電力は最低出力を下げたり、出力を変える速さを改善したりして、再エネの受入れと調整力の価値向上を進めています。燃料調達と市場取引も組み合わせて、電源を運用する方針です。 〔 資料2 〕
2025年度の自社電源の発電量構成では石炭が46%を占めています。原子力の稼働、LNG火力への更新、再エネの導入を進めることが、発電時のCO₂を減らし、顧客の脱炭素化に応える取り組みになります。 〔 資料2 〕
5 販売は増えたが競争と費用増で減益(PL)
| 項目 | 2024年度 | 2025年度 |
|---|---|---|
| 売上高 | 15,292.2 | 14,423.0 |
| 営業利益 | 1,291.5 | 902.2 |
| 経常利益 | 1,285.4 | 802.3 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 984.7 | 685.4 |
| 支払利息 | 144.8 | 258.0 |
出典: 〔 資料1 〕
2025年度・連結、単位:億円
- 営業利益 902.2
- 経常利益 802.3
- 最終利益 685.4
出典: 〔 資料1 〕
2025年度の売上高は1兆4,423.0億円、経常利益は802.3億円でした。販売電力量は増えましたが、燃料価格の低下に伴って料金に含まれる燃料費調整額が減り、売上は前年度を下回りました。 〔 資料1 〕
島根2号機の稼働と販売拡大は収支を改善しました。一方、卸・小売の競争進展や送配電事業の利益減が重なり、営業利益は902.2億円へ減少しました。総合エネルギーの営業利益は702億円、送配電は120億円、情報通信は48億円です。 〔 資料1 〕
送配電では、託送需要の減少などによる収入減と、物価上昇による修繕費・委託費の増加が利益を圧迫しました。支払利息も144.8億円から258.0億円へ増えています。電源の稼働による改善に、販売条件と維持費、資金調達費用が重なる決算でした。 〔 資料1 〕
6 建設中の設備が1兆円を超える(BS)
| 項目 | 2025年3月末 | 2026年3月末 |
|---|---|---|
| 総資産 | 43,609.6 | 46,205.0 |
| 固定資産 | 36,651.2 | 37,906.4 |
| 建設仮勘定及び除却仮勘定 | 9,209.6 | 10,496.0 |
| 負債合計 | 36,550.9 | 38,452.1 |
| 純資産 | 7,058.7 | 7,752.9 |
| 自己資本比率 | 16.2% | 16.8% |
出典: 〔 資料1 〕
2026年3月末の総資産は4兆6,205.0億円でした。建設仮勘定及び除却仮勘定は1兆496.0億円で、前年度末から増えています。会社は、島根3号機に関する固定資産仮勘定の増加を総資産増の主な要因に挙げています。 〔 資料1 〕
純資産は7,752.9億円、自己資本比率は16.8%となりました。利益の蓄積によって資本は増えていますが、大型投資に伴う資金需要も大きく、有利子負債は3兆3,325億円となっています。 〔 資料1 〕
建設中の設備には、運転を始める前から資金を投じます。中国電力では、島根3号機や柳井新2号機の工事を進める期間に借入などを確保し、運転後の収益で投資回収と財務改善を進める計画です。審査や工事の進捗に応じて、運転開始時期と資金調達の計画を調整する必要があります。 〔 資料2 〕
7 投資を賄いながら運転開始までの資金を確保(CF)
キャッシュフロー(CF)は、事業、投資、資金調達による現金の出入りです。2025年度の営業CFは2,372.9億円、投資CFは2,362.5億円の支出でした。両者の合計は10.4億円のプラスです。 〔 資料1 〕
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 営業活動によるCF | 2,372.9 |
| 投資活動によるCF | −2,362.5 |
| 財務活動によるCF | 1,353.9 |
| 期末の現金及び現金同等物 | 4,233.0 |
2025年度・連結、単位:億円
- 営業活動によるCF 2,372.9
- 投資活動によるCF −2,362.5
- 財務活動によるCF 1,353.9
出典: 〔 資料1 〕
投資CFの支出は前年度より減りました。財務CFは、社債・借入金による調達などで1,353.9億円の収入となり、期末の現金及び現金同等物は4,233.0億円へ増えています。設備投資が続く中で、手元の現金も確保しています。 〔 資料1 〕
資金調達では、GX推進機構の債務保証を使った融資も活用しています。2026年9月25日には、複数の金融機関から計1,490億円を借り入れることを決めました。島根3号機の安全対策工事などと、明塚発電所の水車・発電機の更新に充てる計画です。 〔 資料6 〕
8 島根3号機と柳井の更新に投資が集中
2026〜2030年度の計画では、総額約1.7兆円を投資します。原子力関連に約8,000億円、送配電関連に約5,500億円、火力関連に約1,300億円を配分する方針です。 〔 資料2 〕
| 対象 | 計画・役割 | 2026年秋の段階 |
|---|---|---|
| 島根3号機 | 2030年度までの運転開始を目指す | 9月11日に原子炉設置変更許可申請の補正書(4回目)を提出。審査対応と安全対策工事を進める |
| 柳井新2号機 | 出力52.2万kWの高効率LNG火力 | 2027年の工事開始、2030年7月の営業運転開始を予定 |
| 送配電設備 | 需要増への対応、設備の更新・高度化 | 5年間で約5,500億円を配分 |
| 市場取引の体制 | 発電・燃料・電力取引を一体で管理 | 取引機能と価格・信用リスクの管理を強化 |
島根3号機の9月の補正書では、主に地震の揺れや津波を想定する基準へ新たな知見を反映しました。運転開始に向けて、規制委員会の審査への対応を続けています。 〔 資料7 〕
島根3号機は安全対策工事の完了を2028年度目途とし、その後の試運転を経て運転開始を目指します。柳井新2号機と合わせて長期脱炭素電源オークションを活用し、建設費などの固定費を長期で回収する仕組みを組み込んでいます。 〔 資料2 〕
2030年度には自己資本比率20%以上、経常利益1,100億円を目標にしています。工事を進めながら足元の販売・発電で利益を確保し、運転開始後に投資回収を進めるという順序が計画の中心です。 〔 資料2 〕
9 安全・公平性と地域への説明
島根原発では、運転員の訓練、保守・点検の技能継承、巡視データの電子化を進めています。運転中の2号機と稼働準備中の3号機の両方で人材が必要になるため、教育と現場への配置を計画的に進めることが安全確保につながります。 〔 資料2 〕
経営面では、過去の不適切事案を受け、社長メッセージで職場の声の上げづらさを課題として挙げています。内部監査には、独占禁止法などの遵守を確認する業務監査や、電気事業法の行為規制を確認する監査が組み込まれています。発電・販売と送配電の間で情報を適切に扱い、公平な取引を続けることが必要です。 〔 資料2 〕
大型電源の立地地域には、審査と工事の進捗、安全対策、事故時の対応を継続して伝える必要があります。設備を利用する顧客には、脱炭素の価値と料金、供給の安定性を説明する仕事があります。建設と財務の計画を、それぞれの地域や利用者の生活・事業と結びつけて進めることが求められます。
10 投資中の財務を支える収益力が焦点
2026年度第1四半期は、経常損失32.9億円、最終損失37.7億円でした。7月31日時点の通期予想は、経常利益400億円、最終利益310億円です。島根2号機の検査後の運転、販売契約、設備費などを含めて年度の収支を追う必要があります。 〔 資料4 〕 〔 資料5 〕
中国電力の今後を考えるうえでは、島根3号機と柳井新2号機の工程、建設中の資産と有利子負債、営業CFを合わせて見ると状況をつかめます。設備が動くまでの期間を支える収益力と、運転後に投資を回収する力の両方が必要です。
地域から求められるのは、製造業の電化や燃料転換への対応と、人口の少ない地域も含む安定供給です。中国電力は、これらの需要を具体的な契約につなげながら、原子力・火力・送配電への投資を進める段階にあります。
参照資料
-
資料1
中国電力 2026年3月期決算短信(訂正後)
2026年4月28日公表、6月9日訂正。本文pp.2–5、8–10、14–16。PL・BS・CF、発受電量、事業別業績。
-
資料2
中国電力グループ 統合報告書2026
pp.5–14、23–31、45–48、61。地域産業、経営目標、大型電源投資、資金調達とガバナンス。
-
資料3
中国電力 沿革
設立、水力・火力・原子力の開発、送配電分社化の経緯。
-
資料4
中国電力 2027年3月期第1四半期決算短信(期中レビュー完了版)
2026年8月5日。7月31日公表値から変更なし。連結実績と2026年度予想。
-
資料5
島根原子力発電所2号機の営業運転再開
2026年9月16日。第18回定期事業者検査の終了と営業運転への移行。
-
資料6
GX推進機構の金融支援を活用したトランジションローンによる資金調達について
2026年9月25日。計1,490億円の融資の決定、GX推進機構の債務保証、島根3号機と明塚発電所への資金使途。
-
資料7
島根原子力発電所3号機の原子炉設置変更許可申請に係る補正書(4回目)の提出について
2026年9月11日。基準地震動や基準津波などへの新たな知見の反映と、審査への対応。