中長期取引市場は、小売事業者が将来の電気を量的に確保するための取引環境として検討されている。BL市場で論点となった年間一定量、燃料費、供出時期、地域間値差は、新市場の契約条件にも関わる。早期に購入量を決める仕組みでは、その後の需要変動にどう対応するかも、買い手の負担を左右する。〔S17、pp.3–5〕
小売事業者のkWh確保と取引環境を一体で整える
2026年3月17日公表の政府回答は、2022年の小売事業者の撤退、需要家との契約打切り、託送料金の未払い等を挙げ、需要家に安定して継続的に供給できる環境を整える必要性を説明した。〔S17、pp.3–5〕
検討対象は、小売事業者が3年前や1年前の段階で、将来必要になる電力量、すなわちkWhを一定程度確保する仕組みである。調達環境として、内外無差別な相対卸と中長期取引市場が挙げられている。〔S17、p.4〕
将来の電源へのアクセスと内部小売との競争条件を扱ったBL市場に対し、新市場の検討では、各小売事業者が必要な電力量をいつまでに確保するかが加わる。確保済みの数量、調達契約の内容、受渡し時点の需要量が、供給継続との関係を示すデータになる。
購入量を早期に決めれば、直前のスポット市場で調達する量を減らせる。顧客の獲得や離脱が確定する前に契約するため、購入後に需要見通しが変わる期間も長くなる。顧客を失えば余剰電力が生じ、新たな顧客を獲得すれば追加調達が必要になる。契約後の再販売、数量変更、権利・義務の移転といった条件が、この過不足への対応に関わる。
取引する時点と、電気を受け渡す期間
BL市場の2年商品は、電気を2年間受け渡す商品である。中長期取引市場の検討で使われる3年前商品・1年前商品は、受渡年度に対して何年前に取引するかを表す。〔S04、pp.10–13/S19、スライド32〕
受渡期間を長くすると、複数年にわたる購入量と価格の条件を先に決めることになる。取引時点を早めると、受渡しが始まるまでに需要や燃料市況が変化する期間が長くなる。契約後の数量変更や売却に関する条件は、いずれの場合も小売事業者の費用に影響する。
2026年8月3日の第3回中長期取引市場検討WGの事務局資料では、大規模発電事業者の対象基準として500万kW等が示された。3年前・1年前の供出配分の図には、5/7、2/7等の例が示されている。〔S18、スライド21/S19、スライド32〕
供出量は、対象事業者の範囲、算定の基礎にする発電量や需要量、各取引時点への配分によって決まる。取引時点を前倒しする仕組みでは、その段階で発電事業者が見通せる運転計画と、小売事業者が見通せる需要量を契約でどう結び付けるかが論点となる。
供出期間と購入量の判定時期を合わせる
BL市場では、買い手が需要を見通しやすい1月に追加回を設けた。供出は任意とされ、2022年度第4回には大規模発電事業者からの売り入札がなかった。導入前の2021年には、需給が厳しいときの供出不足を懸念する意見が提出されていた。〔S03、p.3/S04、p.5〕
中長期市場で量的確保の確認期限を設ける場合、その前に買い注文が集中する可能性がある。売り注文が別の時期に偏っていれば、買い手は必要な時期に必要量を調達しにくくなる。年間の供出量とともに、期間ごとの売買注文量が取引の成立に影響する。
供出期間、各期間への配分、未約定分の持越し、買い手の確保量を判定する時点は、相互に関係する。先の期間で売れ残った量を後の期間に持ち越せる条件なら、後の購入機会に出る売り注文が変わる。追加調達の機会を設ける場合にも、その時期の供出条件によって買い手が利用できる量は変わる。
BL市場の追加回の経過は、供出を見込む段階と、実際に注文が出る段階の間に変化があることを示した。新市場の取引結果を追う際には、期間別の売り注文量と、その期間に約定しなかった買い注文量が対応する指標になる。
商品の種類と取引方式が注文の集まり方を変える
年間一定量のベース商品は、同じ条件の注文を集めやすい。昼間や特定の季節に需要が偏る小売事業者は、年間一定量を購入すると一部の時間帯に余剰が生じやすい。ミドル商品など、供給する時間帯を分けた商品を設ける場合、需要に合わせやすくなる分、注文は商品ごとに分かれる。
取引方式にも違いがある。一定の時期に注文を集めるオークションでは、その時点の売買注文を突き合わせる。ザラバ取引では、売り注文と買い注文の条件が合うたびに取引が成立する。継続的に取引する方式では、注文一覧に表示される数量や価格、注文が維持される期間が、買い手の購入機会に影響する。部分約定の可否も、一度に購入できる量を左右する。
商品の種類を増やすことと、注文を集めることは、各商品にどれだけ売買需要があるかによって関係が変わる。商品別の注文量、売買価格の差、約定頻度を追うことで、利用者の需要に対応する条件と取引の成立状況を比較できる。
固定する費用と事後調整する費用
BL市場では、固定価格に含む燃料費想定が大きく異なったことを受け、燃調付き商品が追加された。固定価格商品については、その後、燃料先物価格を原則的な算定指標として用いる考え方が整理された。〔S04、pp.9–18/S06、BL市場に関する章〕
新市場で固定価格を採用する場合、売り手が将来費用の変動をどの程度見込むかが、提示価格に関わる。事後調整を採用する場合、買い手の支払額は指数や係数に応じて変わる。売り手と買い手のどちらが、どの費用の変動を負担するかを定める契約条件になる。
排出枠の費用を取引価格に反映する場合には、当初価格に含めた額、事後に調整する額、無償割当分の扱いが関係する。2026年8月のBL市場ガイドライン改定案でも、排出枠に関する費用と無償割当が論点となった。〔S16、pp.12–14〕
買い手が調達費を見積もる際には、約定単価と、契約後に変わる費用を組み合わせることになる。小売料金側の燃料費調整や価格固定の条件によって、仕入れ費用が変わった際の収支も異なる。
市場範囲とエリア間値差の負担
BL市場では、市場区分の変更とエリア間値差の清算が繰り返し検討された。広い地域を一つの商品にまとめる方式では売買注文を集めやすくなり、地域を分ける方式では各地域の価格条件を反映しやすくなる。〔S06、pp.11–14〕
値差を買い手が負担する場合、契約価格を固定しても、需要地での最終負担は変わり得る。売り手が負担する場合は、売り手が値差の見込みを指値に反映する可能性がある。財源を設けて清算する方式では、補償条件と財源の上限が、当事者に残る負担を決める。
間接送電権等を利用する場合、調達した商品の受渡期間とエリア、数量に対応する権利が必要になる。権利の取得価格を含めた総費用と、取得量に対応する値差負担が、ヘッジの結果を示す。
新市場の取引価格と需要地での実質価格は、値差の負担方法によって異なる。取引量とともに、需要地別の支払額、清算額、買い手に残る差額が、市場範囲を設定した効果を調べるデータになる。
先物・相対契約・容量市場との関係
2026年3月の政府回答は、電力先物を金融商品として説明したうえで、現物取引との組合せによる供給力確保の扱いを検討する考え方を示した。〔S17、p.4〕
9月18日には、日本エネルギー経済研究所の大西健一氏も、小売事業者のkWh供給力確保義務に伴う先物取引の活用について分析を公表した。先物等を組み合わせた扱いを論点として提示している。〔S20〕
現物契約は電気を受け取る量と条件を定め、先物は価格変動への対応に使われる。現物量を確保する契約と価格を調整する取引を組み合わせる場合、対象期間、数量、価格指標を対応させることになる。供給力として数える量は、現物契約と金融取引の組合せに関する制度条件によって決まる。
容量市場はkWの供給能力を確保する制度で、小売事業者が調達する電力量はkWhで表される。新市場との関係では、取引価格に含まれる費用と、容量に係る収入・負担の調整が論点になる。政府回答にも、容量に係る負担への事業者の意見と、制度設計上の検討が示されている。〔S17、p.4〕
BL市場の改修と、新市場で比較する取引条件
BL市場で生じた問題と、それに対応する契約条件・実績データを並べると、次の関係になる。
| BL市場で生じた問題・変更 | 新市場で比較する取引条件 | 対応する実績データ |
|---|---|---|
| 年間一定量の商品への使いにくさの指摘 | 時間帯・期間別の商品、再取引、数量変更 | 商品別の注文量、約定率、余剰処理量 |
| 固定価格に含む燃料費想定の差 | 固定・変動部分、指数、係数、算定方法の監視 | 同条件の指値、調整後の支払額 |
| 追加回に大規模発電事業者の売り入札がなかった | 供出期間、期間別の量、持越し、確保量の判定期限 | 期間別の売り注文と未約定の買い注文 |
| 相対卸の進展に伴うBL供出量の控除 | 相対卸との役割分担、確保量への算入条件 | 調達経路別の契約量、利用事業者の規模 |
| エリア間値差と清算制度の変更 | 基準エリア、負担主体、間接送電権、清算財源 | 需要地別の実質価格、清算後に残る差額 |
| 燃調付き商品の約定量減少 | 商品数、商品間の注文配分、参加条件 | 商品別・事業者規模別の継続利用 |
BL市場の制度設計では、2018年に価格の同等性や地域区分への意見が出され、2021年には年間商品や任意供出への懸念が示された。その後の改修は、取引機会の追加、燃調付き商品の導入、燃料費算定の見直し、相対卸を反映する供出量控除、値差清算へと及んだ。〔S02/S03/S04/S06〕
中長期取引市場では、将来の電力量を早期に確保する仕組みが加わる。買い手が契約する時点と実際に電気を使う時点の間には、需要量、燃料費、地域間値差の変化がある。各時点で購入できる量と価格、契約後の数量調整、需要地での最終支払額が、BL市場から続く設計論点となっている。
第4回「相対卸の進展とエリア間値差で変わった調達条件」を読む
参照資料
- S02 新経済連盟「制度検討作業部会における検討事項に対する意見」、2018-01-26、pp.1–3。 資料を開く
- S03 資源エネルギー庁「第四次中間とりまとめ案に対する意見及び回答」、2021-06-11、pp.1–3、意見5–7。 資料を開く
- S04 資源エネルギー庁「第十二次中間とりまとめ」、2023-07-11、pp.5–18、23–26。 資料を開く
- S06 資源エネルギー庁「第十八次中間とりまとめ」、2024-08-16、pp.4–14。 資料を開く
- S16 資源エネルギー庁「ベースロード市場ガイドライン改定案」、2026-08-26、pp.12–14。 資料を開く
- S17 資源エネルギー庁「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WGとりまとめ案に対する意見及び回答」、2026-03-17、pp.3–5。 資料を開く
- S18 資源エネルギー庁「第3回中長期取引市場検討WG 資料3 中長期取引市場の詳細検討(2)(供出量を高める方策等)」、2026-08-03、p.21。 資料を開く
- S19 資源エネルギー庁「第3回中長期取引市場検討WG 資料3 中長期取引市場の詳細検討(2)(供出量を高める方策等)」、2026-08-03、p.32。 資料を開く
- S20 日本エネルギー経済研究所・大西健一「小売電気事業者のkWh供給力確保義務に伴う電力先物取引の活用」、2026-09-18、pp.1–4。 資料を開く
