予備電源制度は、ひとことで言うと、いまは止まっている火力発電所を、緊急時には動かせる状態で持っておくための仕組みです。 大規模災害による電源脱落や、中長期的な需要増など、容量市場では十分に織り込みきれない事態が起きたときに、休止中の電源を立ち上げて供給力不足を防ぐことを目的としています。 広域機関は、この予備電源を「休止中は供給力そのものではないが、動かせば供給力になる」という意味で準供給力と位置づけています。
この制度が議論されるようになった背景には、2022年3月の電力需給ひっ迫があります。 国と広域機関の資料では、この経験を受けて、休止電源をいざという時に活用できるようにしておく制度措置の検討が始まったと整理されています。 予備電源制度は、容量市場に代わる仕組みというより、容量市場を補う仕組みとして作られたものです。
予備電源として使えるのは、基本的に火力発電の休止電源です。 広域機関の募集要綱では、容量市場で安定電源に区分される火力電源が対象で、規模は10万kW以上とされています。 さらに、直近の容量市場で2年連続して不落札だった電源、未応札だった電源、または差し替え元になった電源などが対象になります。 つまり、ふだん使う発電所をそのまま登録する制度ではなく、容量市場では確保されなかった休止電源を、別の形で備えておく制度です。
予備電源には、短期立ち上げと長期立ち上げの二つがあります。 短期立ち上げは、落札から実需給までおおむね3か月程度で動かすことを想定したもので、必要供給力と容量市場の調達量との差への保険という役割も持ちます。 長期立ち上げは、立ち上げが決まったあとに必要な修繕を行うことを前提にしており、容量市場の追加オークションのうち調達オークションでの立ち上げが想定されています。
制度の流れは、容量市場と少し似ています。 まず広域機関が募集を行い、事業者が応札します。 その後、技術評価と価格評価で落札候補を選び、さらに電力・ガス取引監視等委員会が応札価格を監視したうえで、最終的な落札電源が決まります。 価格の決め方はマルチプライス方式で、容量市場のメインオークションのような共通価格ではなく、落札した案件ごとの応札価格がそのまま反映されます。
落札したら、すぐに発電を始めるわけではありません。 制度適用期間のあいだは、立ち上げ要請に応じられる状態で休止を維持することが求められます。 2025年度募集要綱では、制度適用期間は連続した12か月以上36か月以下の範囲で設定できるとされています。 契約約款でも、維持状況の定期報告、立ち上げに支障が出た場合の報告、立ち上げ要請への対応などが定められています。
費用の考え方も、この制度の大事なポイントです。 予備電源制度では、発電所を動かしていない間も、休止状態を保つための費用がかかります。 広域機関の説明資料では、こうした費用は一般送配電事業者からの拠出金を原資に、広域機関から予備電源維持運用者へ補填金として支払う仕組みだとされています。 国の資料でも、費用負担は託送料金による負担と整理されています。 なお、実際に立ち上げが決まったあとの稼働費用は、予備電源制度そのものではなく、立ち上げ側のプロセスで負担する考え方です。
2024年度募集(2025年度・2026年度制度適用開始向け)は応札なしでした。 これに対し、2025年度募集(2026年度・2027年度制度適用開始向け)では、東西合計200万kWを募集し、東西それぞれ100万kWを対象としていました。 その結果、東エリアは応札なし、西エリアは2者が応札し2者とも落札となり、落札総容量は1,364,985kWでした。 落札電源は、JERAの知多第二発電所2号(LNG、822,842kW)と、関西電力の御坊発電所3号(石油、542,143kW)です。 落札事業者が3者未満だったため、落札金額合計は非公表となっています。
この制度は、まだ見直しが続いている段階でもあります。 予備電源制度ガイドラインでは、応札価格に織り込める費用や、その監視方法が定められています。 2026年3月には、電力・ガス取引監視等委員会が、経年改修費(資本的支出)や発電側課金の扱いをガイドラインに明記する改定を建議しました。 つまり、制度の枠組みは動き始めていますが、費用の入れ方や価格規律は今も調整が続いています。
予備電源制度は、容量市場で確保しきれない緊急時の備えとして、休止中の火力電源を動かせる状態で持っておく制度です。 ふだんは休止を維持し、必要なときだけ別の手続きで立ち上げる点が特徴です。 対象は主に容量市場で落札されなかった大規模な火力電源で、短期立ち上げと長期立ち上げの二つに分かれます。 制度はすでに募集と落札が始まっていますが、応札状況や費用ルールを含めて、今後も調整が続く制度といえます。