ベースロード市場は、旧一般電気事業者などが保有するベースロード電源から、新電力が電気を調達する機会を増やすために設けられた。大規模発電事業者に供出を求め、内部の小売部門との価格差にも規律を設けた。創設前には、内部調達価格との同等性、九州の地域区分、制度効果の検証を求める意見が出ていた。〔S01、pp.4–5/S02、pp.1–3〕
発電事業者の内部小売と調達条件をそろえる
小売事業に新規参入した事業者にとって、電気をどこから、どの条件で調達するかは料金競争に直結する。既存の発電事業者が自社の小売部門に電気を供給する際の条件と、外部の新電力に提示する条件に差があれば、新電力の調達費にも影響する。
2019年5月に改定された「適正な電力取引についての指針」は、新電力が低コストで安定的に稼働できる電源から電気を調達する機会を増やし、旧一般電気事業者との競争条件を整える制度として、ベースロード市場を位置付けた。以下、BL市場と呼ぶ。一定の大規模発電事業者に市場への電気の供出を求め、供出価格にも規律を設ける構成だった。〔S01、pp.4–5〕
価格規律の比較対象は、発電事業者の小売部門がベースロード電源から調達する際の価格等である。発電事業者が自社の小売部門に適用している条件を基準に、外部の新電力にも調達機会を設けようとした。〔S01、pp.4–5〕
当時の指針は、BL市場への供出を競争政策上の望ましい行為として整理した。また、内部取引に比べて不当に高い卸料金を設定する行為や、外部への卸供給を不当に妨げる行為について、独占禁止法上問題となりやすい考え方を示した。供出量と価格の両面から、外部の小売事業者への卸売を促す仕組みである。〔S01、pp.4–5〕
買い手は相対契約やスポット市場とも比較する
新電力は、BL市場の価格を相対契約やスポット市場での調達条件とも比較する。スポット市場は翌日分の電気を時間帯ごとに売買する市場で、BL市場の当初の商品は年間を通じて一定量を固定価格で受け渡すものだった。売り手が負う燃料価格の変動と、買い手が負う需要量の変動は、契約の期間や条件によって異なる。〔S04、pp.7–10〕
内部の小売部門と同程度の価格が示されても、新電力が将来のスポット価格をそれより低く見込めば、購入量を抑える誘因がある。将来の価格上昇を見込む場合には、先に価格を固定して調達する利点が大きくなる。BL市場の利用量には、内部卸との価格関係と、買い手が利用できる他の調達手段の両方が関係する。
数量の判断には、顧客との契約期間や時間帯別の需要、既に確保している電源も関わる。年間の購入量を決めた後に顧客が離脱すれば、電気が余る。販売量が増えれば、追加調達が必要になる。年間一定量の商品を購入する小売事業者は、受渡期間中の需要変動を見込んで調達量を決めることになる。
売り手に求める供出量は制度で定められるが、買い手が注文する量は各社の需要見通しや提示価格に左右される。売り注文量、買い注文量、条件が一致して売買が成立した約定量には、それぞれ異なる要因が作用する。供出量が多い回でも、買い手が必要とする地域や価格に合わなければ、未約定の注文が残る。
創設前に指摘された内部調達価格と九州の区分
新経済連盟は2018年1月26日の意見書で、BL市場の価格の決め方が新電力と既存事業者の小売部門との公平性を確保するかを問い、内部調達価格との同等性を明確にするよう求めた。制度導入による効果の事前検証も要望した。〔S02、pp.1–2〕
供出価格に上限を設ける場合、その算定に使う費用と、内部の小売部門に適用している費用が比較の対象になる。契約期間や負荷率、数量変更の条件が異なれば、価格に含まれる費用も変わる。同連盟の意見は、価格規律が実際の調達条件にどう反映されるかを、制度開始前に具体化するよう求めたものだった。〔S02、pp.1–2〕
地域区分については、当初想定されていた北海道・東日本・西日本の3区分に対し、九州を別区分にすることを求めた。意見書では、競争条件と電源へのアクセスが論点となっていた。〔S02、pp.2–3〕
市場を広い地域に設定すると、同じ商品に参加する売り手と買い手を集めやすくなる。地域を分けると、各地域の電源や需要の条件を取引に反映しやすくなるが、注文も市場ごとに分かれる。どの地域を一つの市場にまとめるかは、創設前から検討対象になっていた。
年間一定量・固定価格に商品をそろえた理由
資源エネルギー庁は、2023年の第十二次中間とりまとめで、当初の商品設計の理由を整理している。年間一定量・固定価格に条件をそろえることで、商品を標準化し、取引の分散を防ぎ、価格指標を形成する考え方だった。細かな条件を交渉する相対契約との役割分担も挙げた。〔S04、pp.7–10〕
条件が共通なら、買い手は同じ受渡期間・数量形状の商品について価格を比較できる。売り手にとっても、どの商品に注文を出すかが明確になる。市場の取引開始時に注文を集めるうえで、商品の標準化にはこうした利点がある。
小売事業者の需要は、季節や時間帯によって変わる。月別や時間帯別の商品を設ければ、買い手は自社の需要に近い条件を選びやすくなる。その場合、売買注文は複数の商品に分かれるため、各商品の注文量によっては相手方を見つけにくくなる。商品の種類と、各商品に集まる注文量の関係が設計上の論点になる。
固定価格には、契約時に購入単価を決められる利点がある。売り手は、受渡期間中の燃料費を見積もって価格を設定する。燃料価格の変動が大きくなると、その見積額も購入条件を左右する。年間の引取量をそろえる仕組みと、将来の単価を固定する仕組みは、需要変動と燃料変動への対応をそれぞれ契約当事者に求める。
制度目的と取引結果を結び付ける指標
BL市場の取引実績は、商品に対してどれだけの売買注文が出され、どれだけ約定したかを示す。創設時に掲げた電源アクセスや競争条件との関係を調べる際には、次のデータが対応する。
| 制度目的・検証対象 | 対応するデータ |
|---|---|
| ベースロード電源へのアクセス | 購入事業者数、購入量、参加条件、相対卸を含む調達経路 |
| 内部小売との競争条件 | 受渡期間、負荷形状、数量条件をそろえた内部卸と外部卸の価格 |
| 安定的な調達 | 契約済み数量、価格の固定部分と変動部分、需要変動後の過不足 |
| 小売競争への影響 | 調達原価、小売料金、顧客構成、燃料市況や他の政策の変化 |
BL市場は、内部小売との価格関係を基準とする供出措置と、標準化した年間商品を組み合わせて始まった。取引が成立する量は、各社がその商品をどの価格で、どれだけ必要とするかによって決まる。次回は、初期の売買注文と約定結果、商品条件や追加オークションをめぐる意見をたどる。
