長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源への新しい投資を後押しし、長い期間にわたって供給力を確保するための仕組みです。 容量市場の一部として2023年度に創設されました。
通常の容量市場は、4年後の1年間に必要な供給力を確保する市場ですが、それだけでは巨額の初期投資を伴う新規電源に十分な収入の見通しを与えにくいと整理されています。 そこで、新設・リプレース・改修を対象に、より長い期間の収入見通しを与える制度として設けられました。 あわせて、2022年3月の需給ひっ迫を踏まえ、比較的短期に建設しやすいLNG専焼火力の新設・リプレースも一定期間の対象に含められています。
この制度で事業者が受け取るのは、電気の販売代金そのものではなく、容量確保契約金額です。 落札した案件は、供給力の提供を始めた後、原則20年間にわたって容量収入を受け取る仕組みになっています。
一方で、卸市場や非化石市場などで得た収益はそのまま全額が事業者の手元に残るわけではなく、可変費を差し引いた他市場収益の約9割を事後的に還付する設計です。 還付割合は一律ではなく、95%・90%・85%の3段階に分かれています。 原資は広域機関が小売電気事業者などから徴収する容量拠出金です。
オークションの進み方は、メインオークションと少し違います。 長期脱炭素電源オークションでは、脱炭素電源とLNG専焼火力で募集量を分け、それぞれ別々に入札を行います。 落札の方式はメインオークションのシングルプライスではなく、マルチプライス方式です。 原則として応札価格の低い順に落札されますが、落札した案件には共通価格ではなく、それぞれの応札価格がそのまま約定価格として適用されます。
参加対象となる電源はかなり幅広く設定されています。 2025年度向けの概要資料では、以下の電源が対象です。
電源種ごとに、新設・リプレース・改修のどれが認められるか、何年以内に供給力の提供を始める必要があるか、最低どのくらいの規模が必要かが細かく決められています。 募集対象エリアは全国ですが、沖縄地域とその他の離島は除かれています。
募集量も電源ごとに整理されています。2025年度の資料では、脱炭素電源の募集量は500万kW、LNG専焼火力の募集量は2,929,036kWです。 さらに、脱炭素火力は50万kW、揚水とリチウムイオン蓄電池は合計40万kW、揚水新設・リチウムイオン蓄電池以外の蓄電池・長期エネルギー貯蔵システムは合計40万kW、既設原子力の安全対策投資は150万kWを上限とするなど、電源種ごとの募集上限も設けられています。 LNG専焼火力の募集量には、2024年度分で落札に至らなかった残余約93万kWも反映されています。
落札したら終わりではない点も、この制度の大きな特徴です。 落札した事業者には、登録した供給力提供開始時期を守ること、電源種ごとに定められた供給力提供開始期限までに供給力を提供し始めること、容量停止計画の調整に応じることなどのリクワイアメントが課されます。 制度適用期間の前からアセスメントや各種手続きがあり、達成状況に応じて容量確保契約金額の受領やペナルティの精算が行われます。
第1回の応札年度2023年度オークションでは、脱炭素電源が401.0万kW、LNG専焼火力が575.6万kW落札されました。 第2回の応札年度2024年度オークションでは、脱炭素電源が503.0万kW、LNG専焼火力が131.5万kW落札されています。 第2回の脱炭素電源の内訳を見ると、既設原子力の安全対策投資が315.3万kWと大きく、蓄電池・揚水、既設火力の改修、一般水力も落札しています。 なお、広域機関の公表ページでは、2026年1月7日時点で掲載されている長期脱炭素電源オークションの結果は応札年度2024年度分までです。
この制度は、創設されたばかりの仕組みということもあり、見直しも続いています。 2025年度向けの制度では、長期エネルギー貯蔵システムが対象に加わり、事業報酬率は一律5%から電源種ごとに4〜6%へ差別化されました。 あわせて、脱炭素火力の一部では可変費の一部を応札価格に算入できるようにする見直しも盛り込まれています。 さらに2025年6月の審議会資料では、インフレや金利上昇への対応として、落札価格を建設工事デフレーターなどで補正することや、水素・アンモニアの上限価格を引き上げることなども検討事項として示されました。
長期脱炭素電源オークションも監視の対象です。 資源エネルギー庁のガイドラインでは、監視等委が応札価格を確認し、認められない費用が含まれている場合は価格修正を求めたり、事業者が応札を取り下げたりできる仕組みが定められています。 2024年度に実施された監視では、2023年度第3回オークションから2024年度第2回オークションまでの範囲で、問題となる事例は認められなかったとエネルギー白書に整理されています。
長期脱炭素電源オークションは、通常の容量市場だけでは支えにくい新規投資に対して、長期の収入見通しを与えるための仕組みです。 メインオークションと同じく供給力を確保する制度ですが、対象が新しい脱炭素投資であること、マルチプライス方式であること、原則20年間の容量収入と他市場収益の還付を組み合わせていることが大きな違いです。 現在も制度見直しと監視が続いており、安定供給と脱炭素化をどう両立させるかを反映しながら運用されている市場です。