同時市場は、ひとことで言うと、電気そのものと、需給調整に使う力を別々ではなく、まとめて同時に約定させる市場です。広域機関は、いま別々に運営されている卸電力市場の電力(kWh)と、需給調整市場の調整力(ΔkW)を同時に取引・約定させる市場だと説明しています。資源エネルギー庁と広域機関の第二次中間取りまとめでも、同時市場は、現在の卸電力市場と需給調整市場を一体で見て、同じ電源をどう配分するかを決める仕組みとして整理されています。
この仕組みが議論されている理由は、今の市場が別々に動いているからです。いまは、翌日の電気は卸電力市場で、需給調整に使う力は需給調整市場で、それぞれ別に取引しています。そのため、同じ発電所や蓄電池を、どちらの市場にどれだけ出すかで「取り合い」が起こりやすく、売り入札不足や価格高騰、調整力不足につながるおそれがあるとされています。広域機関は、同時市場によってこの問題を解消し、電力と調整力を適切に配分できるようにすると説明しています。
同時市場のもう一つの狙いは、再エネが増えた電力システムに合った運用へ変えていくことです。第二次中間取りまとめでは、変動性再エネの増加により、需給予測のずれや系統混雑が大きくなりやすくなる中、前日市場や時間前市場の約定でも、需給バランスや送電容量の制約を考慮した運用が重要になると整理されています。第7次エネルギー基本計画の解説でも、需給の状況や実際に送れる電気の量などを踏まえながら、電力と調整力を同時に取引する仕組みの導入に向けて検討を進めるとされています。
今の市場との違いは、発電所の運転のしかたまで含めて約定を考える点にあります。第二次中間取りまとめでは、同時市場では、発電機ごとの起動費、最低出力で動かすための費用、出力を増やすときの費用、起動にかかる時間、出力の上げ下げの速さなどを入札情報として扱う方向が示されています。つまり、「何円で何kWh売るか」だけではなく、その発電所をどう動かすと全体としていちばん効率的かまで踏み込んで市場約定に反映させる考え方です。
このため、同時市場は、見た目は市場ですが、中身はかなり高度です。2026年2月の検討会資料では、同時市場を動かすには、入札受付や約定、価格算定、精算といった通常の市場機能に加えて、需給バランスや送電容量を考えながら電源の起動停止と出力配分を決める高度な計算処理を行うシステムが必要だと説明されています。
制度上の位置づけも大きいです。2025年12月の制度設計ワーキンググループの取りまとめでは、同時市場は既存の卸電力市場や需給調整市場を代替する市場という位置づけで整理されています。一方で、発電・小売・送配電の各事業者の役割や責任の基本的な考え方そのものを変えるものではないともされています。つまり、「市場の仕組み」は大きく変わる一方で、事業者の基本的な立場はそのまま、という整理です。
最近の進み具合もかなり重要です。2026年3月時点で、同時市場の在り方等に関する検討会は2026年3月26日に第22回まで開催されています。2025年10月15日には第二次中間取りまとめが公表され、その後は「導入するかどうかをもう決めた」段階ではなく、導入に向けた詳細設計と技術研究に入った段階です。2026年2月の第21回検討会では、第1フェーズとして、詳細業務設計、運営主体の検討、システムの実現可能性を示す技術研究を2026年度から開始する方針が示されました。あわせて、そのための新しい会議体として業務設計・技術研究会を設ける方針も示されています。
そして、導入はまだ確定ではありません。2026年2月の資料では、第1フェーズのあとに、第2フェーズとしてシステム開発に向けた要求定義を行い、その結果を踏まえて同時市場の導入可能性を最終判断すると整理されています。つまり、今は「導入決定後の準備」ではなく、本格検討の途中です。
直近の2026年3月の第22回検討会では、かなり具体的な論点も扱われています。公表資料では、前日市場での価格算定において小売の想定需要と送配電側の想定需要をどう扱うか、送電ロスをどう扱うか、そして業務設計・技術研究会の参加メンバーなどが議題になっています。加えて、新たに2024年度データを使った分析では、小売想定需要と送配電想定需要の精度差は2021年度より縮小していたことも示されています。
同時市場は、電気と調整力を別々ではなく一体で約定させ、発電所の運転コストや系統制約も踏まえて全体を最適化しようとする新しい市場の考え方です。狙いは、今の市場が別々に動いていることで起きる電源の取り合いや価格高騰、調整力不足、再エネ増加に伴う運用の難しさに対応することです。足元では、2025年10月の第二次中間取りまとめを経て、2026年度から詳細設計と技術研究に入る段階にあり、2026年3月時点でも運営主体、価格算定、送電ロス、需要想定の扱いなどの具体論が続いています。