会議情報
2025.10.15 取りまとめ 同時市場検討会
資料別の解説
1 はじめに 開く
同時市場の検討は、2021年12月に設置された勉強会から始まり、その後、作業部会と検討会で議論が続けられてきた。2024年11月には中間取りまとめが公表され、2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画や、2025年3月の電力システム改革の検証結果でも、同時市場の導入に向けて検討を深める方針が示された。今回の第二次中間取りまとめは、第13回から第19回までの議論を中心にまとめたものである。
背景には、電力市場を取り巻く環境の変化がある。資料では、卸電力取引所や需給調整市場での売り入札不足、価格高騰、調整力必要量の増加、系統混雑などが課題として挙げられている。
2 同時市場の基本的な考え方 開く
同時市場を導入する大きな理由は、電気と調整力をまとめて配分するためである。
現在は、電気を取引する市場と調整力を取引する市場が分かれている。そのため、ある発電所の能力を、電気として売るのか、調整力として確保するのかを別々に考えることになる。資料では、この仕組みでは市場間で供給力の取り合いが生じる可能性があると整理している。
2020年度冬期には、スポット市場価格が大きく高騰した。スポット市場とは、翌日に使う電気を取引する市場である。このときは、寒さによる需要増加や燃料制約により、スポット市場の売り入札が不足し、価格が上がった。資料では、発電事業者がスポット市場に出さなかった電源が、最終的に調整力として使われた例もあったと説明している。
再生可能エネルギーが増えることも、同時市場の背景にある。太陽光や風力は、天気によって発電量が変わる。発電量の予測が外れたときには、他の電源や蓄電池などで調整する必要がある。資料では、2034年度の全国の調整力必要量が、現在の119〜129%になる見通しも示されている。
同時市場では、現在は別々に取引されている電気と調整力を同時に取引し、約定させる。発電所の能力を電気として使うのか、調整力として確保するのかを一体で計算し、安定供給と費用の低減を目指す仕組みである。
発電事業者には、原則として発電余力の全量を同時市場に入札することが求められる。発電余力とは、自社の供給予定や契約、予備力などを差し引いた後、市場に出せる発電能力のことである。また、すべての電源について、運転制約や価格情報を含む電源情報の登録を求める方針も示されている。
3 同時市場の取引の仕組み 開く
同時市場では、前日市場、時間前市場、直前市場を設ける方向が示されている。
前日市場は、実際に電気を使う日の前日に開かれる市場である。現在のスポット市場と需給調整市場を置き換える中心的な市場になる。翌日24時間を30分ごとの48コマに分けて取引する想定である。前日市場では、入札情報、市場外の発電・需要計画、送電線の制約などを考慮し、発電費用が小さくなるように、どの電源を起動するか、どれだけ発電するかを決める。
時間前市場は、前日市場の後、実際に電気を使う前日や当日に複数回開かれる市場である。前日市場の後に、需要予測や再エネ発電量の見通しが変わることがある。その変化に合わせて、発電計画や調整力の確保を修正するための市場である。
直前市場は、実際に電気を使う約1時間前に開かれる市場である。直前市場では、発電所を新しく起動する計算は原則として行わず、すでに動いている電源の出力配分を調整する。小売電気事業者や再エネ事業者が、需要計画や発電計画を直前に修正し、インバランスを避けるための取引が想定されている。インバランスとは、計画していた電力量と実際の電力量のずれのことである。
4 価格算定と精算 開く
同時市場では、電力価格の算定方法も大きな論点になっている。
資料では、電力価格を「シャドウプライス」で算定する考え方が示されている。シャドウプライスとは、需要が1kWh増えた場合に、発電費用がどれだけ増えるかを示す価格である。簡単に言えば、追加で1kWhの電気を供給するために必要な費用である。
発電所には、発電量に応じて増える費用のほか、起動費もある。市場価格だけでは起動費を回収できない場合がある。その不足分を個別に補償する仕組みが「アップリフト」である。アップリフトは、効率的な電源運用を行うために必要な補償として整理されている。
アップリフトの負担方法は、今後の検討課題である。資料では、追加的な電源運用の原因者や受益者に負担を求める考え方が示されている。一方で、アップリフトの総額を原因ごとに分けることは難しいため、あらかじめ設定した割合で配分する方法も考えられている。
精算では、差分精算の考え方が示されている。前日市場で決まった量から、時間前市場や直前市場で量が変わった場合、その変化分をその市場の価格で精算する。たとえば、前日市場で100を売ることになっていた発電所が、時間前市場で120に増えた場合、増えた20を時間前市場の価格で売った扱いにする。逆に80に減った場合は、20を買い戻した扱いにする。
5 他制度等との関係 開く
同時市場は、容量市場、FIT・FIP、下位系統混雑管理などとの関係も整理する必要がある。
容量市場は、将来の供給力をあらかじめ確保するための市場である。発電所や需要を減らす仕組みなどは、将来の一定期間に供給力として使える状態を維持する対価として容量収入を受け取る。同時市場は、実際に電気を使う前日や当日に、電源をどう動かすかを決める市場である。容量市場で確保した供給力を、実需給に近い時点でどう使うかが関係する。
FIT・FIPとの関係では、コーポレートPPAの扱いが示されている。FITは、再エネ電気を国が決めた価格で買い取る制度である。FIPは、再エネ事業者が市場で電気を売り、市場価格に一定の上乗せを受ける制度である。コーポレートPPAは、企業が再エネ発電事業者から長期で電気を買う契約である。資料では、取引所の約定結果と契約内容を組み合わせ、電源構成を区分して扱う考え方が示されている。
下位系統混雑管理も論点である。同時市場では、基幹系統、つまり大きな送電線の制約を考慮して最適計算を行う方針が示されている。一方で、分散型エネルギー源は、より低い電圧のローカル系統につながることが多い。分散型エネルギー源とは、住宅用太陽光、蓄電池、EV、需要を調整する設備など、小規模で各地に分散している電源や設備を指す。資料では、ローカル系統で混雑が起きた場合に、同時市場の混雑管理とどう両立させるかを引き続き検討するとしている。
6 詳細検討を要する主な事項 開く
資料では、同時市場の導入に向けて、今後さらに検討が必要な事項も整理されている。
重要なのは、システム面の実現可能性である。同時市場では、発電所ごとの費用、起動時間、出力の上げ下げ、需要予測、再エネ発電量、送電線の制約をまとめて計算する必要がある。資料では、この計算処理としてSCUC・SCEDという言葉が出てくる。SCUCは、どの発電所を起動するかを決める計算である。SCEDは、起動している発電所をどれだけ出力させるかを決める計算である。
技術検証では、日本全国の需給・系統データについて、2030年頃の将来想定を使ったシミュレーションが行われている。検証では、目標精度には届かなかったものの、現状のロジックでも、年間を通じて現実的な時間内に実行可能な解を得られることが確認された。
入札義務と情報提供義務の詳細も今後の論点である。発電事業者には、燃料制約などを除いた発電余力全量の市場入札が求められる方向であり、全電源の情報提供も求められる。対象事業者、対象電源、登録すべき情報の範囲は、詳細設計で詰める必要がある。
揚水発電、蓄電池、分散型エネルギー源の扱いも残された論点である。揚水発電は、電気が余る時間に水をくみ上げ、必要な時間に水を落として発電する仕組みである。蓄電池は、電気をためて必要な時間に放電する設備である。これらは、発電と需要の両方の性質を持つため、同時市場の中でどのように入札し、価格を計算するかが課題になる。
取引規律と監視も検討事項である。同時市場では、起動費、最低出力費用、増分費用など、発電所の詳しい費用情報が価格形成に関わる。市場支配力を持つ事業者が不適切な価格を設定しないよう、入札価格の考え方や監視方法を整理する必要がある。
7 今後の検討の進め方 開く
資料では、同時市場の導入について、現時点で大きな異論は見られていないと整理している。一方で、同時市場は多くの電気事業者の実務に影響するため、慎重な検証が必要であり、実現可能性が主な課題として残っている。
今後は、今回の取りまとめで示された方針をもとに、実務面を踏まえた詳細設計と、市場システム開発に向けた要求定義を進める。要求定義とは、システムにどのような機能が必要かを整理する作業である。その作業を通じて、日本で同時市場を実現できると判断された場合に、導入を最終決定する方針が示されている。