審議会資料解説

第1回 中長期取引市場検討WG資料解説

将来の電気をあらかじめ取引する市場について、制度をつくる理由と商品設計、価格・約定・監視の考え方を整理しています。

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会議情報

2026.06.02 第1回 中長期取引市場検討WG

出典:資源エネルギー庁「第1回 中長期取引市場検討ワーキンググループ」

資料別の解説

資料3 中長期取引市場検討ワーキンググループの設置について 開く

資料3では、中長期取引市場検討ワーキンググループを設置する理由が示されている。

中長期取引市場の整備は、2026年3月にまとめられた「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループとりまとめ」を受けたものである。制度設計WGでは、小売電気事業者による中長期の供給力確保、発電事業者による電源投資や燃料調達の見通し改善、安定的な電力価格指標の形成が課題として整理された。

スポット市場は、翌日に使う電気を取引する市場である。取引量は増えているが、燃料価格や需給の影響を受けやすい。2022年の燃料価格高騰時には、電気料金の急激な変動や小売電気事業者の退出が起きた。資料では、こうした経験を踏まえ、中長期で電気を確保する取引を整備する必要があるとされている。

このワーキンググループでは、商品設計、入札方法、決済・清算、市場監視など、制度を実際に動かすための細かい設計を議論する。

資料5 中長期取引市場の整備に向けた具体的な制度設計について 開く

資料5では、中長期取引市場の制度設計が10の論点に分けて整理されている。今回の会議の中心資料である。

中長期取引市場をつくる理由

資料では、中長期取引市場の意義として、電気の価格を安定させるための取引を増やすことが挙げられている。

小売電気事業者は、需要家に電気を売るため、あらかじめ電気を確保する必要がある。スポット市場の価格が大きく変動すると、調達費用も大きく変わる。小売電気事業者の経営が不安定になり、料金にも影響しやすくなる。

発電事業者にも影響がある。将来の販売価格が見えにくいと、発電所への投資や燃料調達の判断が難しくなる。中長期で取引できる市場を整備すれば、発電事業者が将来の収入を見通しやすくなる。資料では、この仕組みを通じて、安定的な価格水準・変動幅での電力供給を目指すと整理されている。

論点1 取り扱う商品

中長期取引市場で扱う商品は、実際に電気を受け渡す年度の3年前と1年前の商品を基本に検討されている。資料では、受渡し期間は原則として1年間の商品とされている。

3年前の商品は、小売電気事業者が早い段階で供給力を確保するための商品である。1年前の商品は、実需給が近づいた段階で必要量を調整するための商品である。

商品には、ベース、ミドル、ピークといった負荷パターンがある。ベース商品は、1日を通じて一定の電気を受け渡す商品である。ミドル商品は、昼間など需要が比較的大きい時間帯を中心にした商品である。ピーク商品は、需要が特に大きい時間帯に対応する商品である。

資料では、3年前の商品はベース商品を中心に、ミドル商品の取扱いも検討するとされている。1年前の商品は、ミドル商品を中心に、ベース商品やピーク商品の取扱いも検討するとされている。

燃料費調整のような事後調整付き商品も論点になっている。事後調整付き商品とは、燃料価格などが変わった場合に、あとから価格を調整する商品である。資料では、事後調整付き商品を扱う場合、各社が自由に式を決める形ではなく、売り入札を横並びで比較できるようにする考え方が示されている。

非化石価値は、中長期取引市場では扱わない方針が示されている。非化石価値とは、発電時にCO2を出さない電気としての価値である。再エネや原子力の電気に関連する価値として、別の制度で取引されている。

論点2 価格の考え方

中長期取引市場の価格は、電源の固定費と可変費をもとに設定する考え方が示されている。固定費とは、発電所を持ち続けるためにかかる費用である。建設費、維持管理費、人件費などが含まれる。可変費とは、発電量に応じて増減する費用である。燃料費などが代表例である。

資料では、固定費と可変費の内訳を国が一律に決め、コストベースで入札させる仕組みは想定されていない。各発電事業者が、固定費と可変費をもとに、自社の考え方で価格を設定する方向である。

3年前の商品と1年前の商品では、価格設定が変わる可能性も示されている。1年前の商品は、実際に電気を使う時期が近いため、スポット市場の価格や燃料価格の影響を受けやすいと考えられている。

論点3 約定方式

約定方式では、ザラバ方式の採用を第一に検討する方針が示されている。ザラバ方式とは、売り注文と買い注文の条件が合った時点で取引が成立する方式である。株式市場の取引をイメージすると分かりやすい。

ザラバ方式を検討する理由は、取引の機会を多くし、事業者が必要なタイミングで取引しやすくするためである。小売電気事業者は、自社の需要見通しや契約状況に応じて電気を確保する必要がある。取引できるタイミングが限られると、必要量を調整しにくくなる。

資料では、取引最小単位、注文の変更を認めるタイミング、部分約定、マーケットメーカーの導入なども論点として示されている。部分約定とは、注文した量の一部だけが成立することである。マーケットメーカーとは、売り注文や買い注文を継続的に出し、市場で取引が成立しやすくなるようにする参加者である。

ザラバ取引に加えて、板寄せ取引を行う可能性も論点になっている。板寄せ取引とは、一定時間に集めた売り注文と買い注文をまとめて約定させる方式である。資料では、シングルプライスオークションやマルチプライスオークションも例として挙げられている。

シングルプライスオークションは、同じ回の取引で成立した価格を一つにそろえる方式である。マルチプライスオークションは、入札価格ごとに異なる価格で約定する方式である。

論点4 供出量を高める方策

中長期取引市場では、売り手が十分な量を市場に出すことが重要になる。売り入札が少ないと、小売電気事業者が必要な電気を確保しにくくなる。

資料では、市場開設から当分の間、一定規模以上の発電事業者に対して市場への供出を求める考え方が示されている。対象の基準は、保有する電源の最大出力の合計が500万kW以上の事業者とされている。グループ会社の電源を合算する考え方も検討対象になっている。

この基準に該当するのは、沖縄電力を除く旧一般電気事業者のグループと電源開発である。これらの事業者が持つ供給力は、日本全体の総供給力の約7割を占めるとされている。

供出量については、原則として電気事業者の販売電力量の10%を対象事業者に求める考え方が示されている。今後は、供出義務量の算定方法、変動性電源の扱い、商品ごとの配分、売れ残った場合の扱いなどが検討される。

変動性電源とは、太陽光や風力のように、天候によって発電量が変わる電源である。中長期の商品としてどのように扱うかは、制度設計上の重要な論点になる。

論点5 市場範囲、市場分断リスクへの対応

中長期取引市場では、エリアをまたいだ取引も認める方向が示されている。たとえば、ある地域の発電事業者が別の地域の小売電気事業者に電気を売る取引である。

エリアをまたぐ取引では、地域間連系線が関係する。地域間連系線とは、電力エリア同士をつなぐ送電線である。連系線の容量が足りない場合、エリアごとにスポット市場価格が分かれることがある。これを市場分断という。

資料では、中長期取引市場で生じる市場分断リスクは、基本的に買い手が負うと整理されている。市場分断が起きると、買い手が想定していた価格と実際のエリア価格に差が出る可能性がある。

今後は、市場を全国統一にするのか、東日本・西日本などに分けるのか、スポット市場と同じ9エリア別にするのかが検討される。市場分断時の清算方法、間接送電権を使った値差リスクへの対応も論点になっている。

間接送電権とは、エリア間の価格差によるリスクを調整するための仕組みである。エリアをまたぐ取引をしやすくするため、どのように組み合わせるかが検討される。

論点6 決済・清算方法

決済・清算方法では、取引が成立した後に、誰が、いつ、どのように支払うかが論点になっている。

中長期取引市場は、将来の電気を取引する市場である。約定から実際の受渡しまで時間が空く。資料では、その間に市場参加者が破綻した場合のリスクも論点として挙げられている。

市場参加者が破綻すると、契約どおりに電気を受け渡せない、代金を支払えないといった問題が生じる。資料では、連鎖的な不履行や市場機能の停止を招かず、安定的に取引を続ける仕組みが必要だとされている。

対応策として、預託金や証拠金の要否が検討される。預託金や証拠金とは、取引の安全性を高めるため、あらかじめ差し入れるお金である。金額が大きすぎると小規模事業者が参加しにくくなるため、参加しやすさと取引の安全性のバランスが論点になる。

論点7 運営主体

市場の運営主体には、信頼性、中立性、安定性が求められると整理されている。

信頼性とは、公正で透明な価格指標を形成し、約定情報を適切に公表できることを指す。市場で不正な取引が行われていないかを監視する機能も含まれる。

中立性とは、売り手や買い手のどちらかに偏らず、市場参加者を公平に扱うことである。

安定性とは、取引システムを安定して運用できることである。中長期取引市場では、取引システム、ルール整備、情報開示、監視体制が重要になる。

今後は、運営主体をどのように選ぶか、どのような評価基準を設けるかが検討される。

論点8 市場参加者

市場参加者については、売り手を発電事業者、買い手を小売電気事業者から始める考え方が示されている。売り手は、発電設備を維持・運用し、電気事業法に基づく届出を行った発電事業者である。買い手は、供給力確保義務を課される小売電気事業者である。

今後は、発電事業者が電源差替のために買い入札を行うケース、小売電気事業者が転売のために売り入札を行うケースも検討される。電源差替とは、ある電源で供給する予定だった電気を、別の電源や別の調達手段に置き換えることである。

発電事業者と小売電気事業者以外の参加を認めるか、市場参加資格としてどのような要件を求めるかも論点になっている。

論点9 他市場との関係

資料では、容量市場とベースロード市場との関係が整理されている。

容量市場は、将来の供給力を確保するための市場である。発電事業者は、将来に電気を供給できる状態を維持することで、容量確保契約金を受け取る。小売電気事業者などが支払う容量拠出金が原資になる。

中長期取引市場では、発電事業者が固定費と可変費をもとに価格を設定する。容量市場でも固定費の一部が回収されるため、固定費の二重取りを避ける調整が必要になる。

長期脱炭素電源オークションとの関係も論点になっている。長期脱炭素電源オークションでは、落札電源が原則20年間、固定費水準の容量収入を得る仕組みがある。市場収益の約9割を還付する仕組みもあるため、中長期取引市場での売入札価格をどう扱うかが検討される。

ベースロード市場については、中長期取引市場の創設により目的や役割を代替できるとして、発展的に解消する方向が示されている。今後は、解消の時期やプロセスが検討される。

論点10 市場監視

市場監視では、価格を直接規制する形はなじまないと整理されている。たとえば、上限価格を設定する、コストの算定根拠を細かく確認して価格を決める、といった方法は想定されていない。

監視対象としては、相対取引の卸売価格と中長期取引市場の入札価格が大きく違うケース、意図的に不当な売り入札を行うケース、複数事業者による協調的行為、支配的な事業者による売り惜しみや買い占めなどが挙げられている。

中長期取引市場は、小売電気事業者の供給力確保にも関わる。市場価格が価格指標として使われる可能性もある。そのため、価格形成の透明性と公正性をどう確保するかが重要になる。

資料では、商品の販売時期、価格設定、約定方式、容量市場との関係などを踏まえ、どの取引行為を監視対象とするか、どのタイミングで監視するかを今後検討するとされている。