蓄電池は、再生可能エネルギーを電力システムの中で使いやすくする設備として存在感を高めています。
太陽光発電は昼間に発電が集中します。夕方以降は発電量が下がるため、昼間の電気をためて、必要な時間に使う仕組みが重要になります。風力発電も風の状況によって発電量が変わるため、発電量の変動をならす設備が必要になります。
蓄電池は、電気をためる設備であると同時に、電力全体のバランスを整える設備でもあります。再エネの導入量が増えるほど、蓄電池の役割は大きくなります。
系統用蓄電池の拡大
いま注目されているのが、系統用蓄電池です。
系統用蓄電池とは、家庭に置く小型の蓄電池ではなく、発電所や変電所の近くなどに設置し、電力システムにつないで使う大型の蓄電池です。電気が余りやすい時間に充電し、必要な時間に放電します。
2025年6月末時点で、実際に電力システムにつながっている系統用蓄電池は約250MWです。4時間分の容量として見ると、約1GWhに相当します。
2030年の導入見通しは、累積14.1〜23.8GWhとされています。2025年6月末時点で、電力会社の設備につなぐための契約申込みは約18GW、4時間分では約72GWhに達しています。
収益の中心は3つの市場
系統用蓄電池の収益は、主に3つの市場から生まれます。
1つ目は、電力卸市場です。電気が安い時間に充電し、価格が高い時間に放電します。太陽光発電が多い昼間に充電し、夕方以降に放電するような使い方です。
2つ目は、需給調整市場です。これは、電気の使用量と発電量のズレを調整する力を取引する市場です。蓄電池は短い時間で充電・放電できるため、需給の変化に素早く対応できます。
3つ目は、容量市場です。これは、将来必要になる供給力をあらかじめ確保するための市場です。蓄電池は発電所ではありませんが、必要な時間に放電できる設備として評価されます。
系統用蓄電池では、どの時間に充電し、どの時間に放電し、どの市場に参加するかが収益を左右します。そのため、設備の規模に加えて、市場価格を見ながら運用する力が重要になります。
長期脱炭素電源オークションでの位置づけ
蓄電池は、長期脱炭素電源オークションでも重要な対象になっています。
長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源への新規投資を促すための制度です。発電所や蓄電池などの新しい設備について、長期の収入を一定程度支える仕組みになっています。
蓄電池はこの制度で注目されてきましたが、制度の条件は変化しています。2025年度向けの制度では、長く放電できる蓄電池の評価、サイバーセキュリティ、電池セルの製造国の偏りを抑える要件などが論点になっています。
ここでいうセルとは、蓄電池を構成する基本単位です。セルをどの国でつくるかは、価格だけでなく、調達リスクや経済安全保障にも関わります。
蓄電池の制度設計は、再エネを支える設備としての役割と、電池産業を国内にどう残すかという産業政策の両方に関わっています。
国が重視する産業政策
国は蓄電池を、電力設備として、さらに重要な産業として位置づけています。
2026年6月には、2022年に策定された「蓄電池産業戦略」が見直され、「蓄電池・電源産業戦略」に改訂されました。背景には、世界的な蓄電池の供給過剰、中国・韓国企業の存在感、AIデータセンターなどで高まる電源需要、サプライチェーンの偏りがあります。
新しい戦略では、国内製造基盤の強化が大きな柱になっています。国内では、2030年から2030年代半ばにかけて、150GWh/年の製造基盤を確立する目標が示されています。
また、日本企業の蓄電池関連売上高を、2025年から2035年に3倍にする目標も掲げられています。蓄電池を国内で使う設備として育てると同時に、世界市場で稼ぐ産業にする狙いがあります。
日本企業の競争軸
蓄電池は、かつて日本企業が強みを持っていた分野です。しかし、現在の世界市場では中国や韓国の企業が大きな存在感を持っています。
価格競争では、中国企業が強い状況です。そのため、日本企業には、価格以外の競争軸が求められています。
具体的には、安全性、長寿命、高出力、温度変化への強さ、発火リスクの低さ、電源システム全体を制御する技術です。
特に、AIデータセンター、医療、防災、通信設備、工場では、電気が止まることの影響が大きくなります。こうした用途では、蓄電池単体の価格よりも、安定して動くこと、異常時に安全に止められること、電源全体を正確に制御できることが重視されます。
今後の蓄電池産業では、電池そのものの性能に加えて、電源システムとして設計・運用する力が競争力になります。
サプライチェーンの課題
蓄電池には、リチウム、ニッケル、コバルト、黒鉛などの材料が使われます。これらの資源や加工工程は、特定の国に集中しやすい構造があります。
材料の調達、精製、部品製造、セル製造、電池パック化、リサイクルまで含めて、どこに依存しているかが重要になります。蓄電池は、エネルギー政策、産業政策、経済安全保障が重なる分野です。
欧州では、電池の製造から廃棄までの情報管理も進んでいます。製造時のCO2排出、材料調達の透明性、リサイクル対応などが求められる流れです。
今後は、安く作る力に加えて、材料の由来、製造時の環境負荷、リサイクルの仕組みを説明できることが重要になります。
全固体電池への期待
全固体電池は、次世代電池として期待されています。
現在広く使われているリチウムイオン電池は、液体の電解質を使うものが中心です。全固体電池は、電解質を固体にすることで、安全性や性能の向上が期待されています。
国の戦略では、2030年頃に全固体電池を本格実用化する方針が示されています。2030年代半ばに向けて、需要の規模に応じた製造基盤をつくることも目標になっています。
全固体電池は、EV、産業用電源、特殊用途などで期待されています。量産技術、コスト、耐久性、用途ごとの性能確認が、今後の焦点になります。
蓄電池の焦点
蓄電池のいまを整理すると、焦点は3つあります。
1つ目は、電力システムでの役割です。太陽光や風力が増える中で、電気をためる、放電する、需給を調整する機能が重要になっています。
2つ目は、事業としての運用力です。系統用蓄電池では、電力卸市場、需給調整市場、容量市場を組み合わせ、どの時間にどう動かすかが収益を左右します。
3つ目は、産業競争力です。蓄電池は、再エネ拡大のための設備であり、EV、データセンター、防災、医療、通信にも関わる戦略産業です。国内製造基盤、材料調達、全固体電池、リサイクルまで含めて、政策の対象になっています。
蓄電池は、再エネの調整役から、電力システムと産業政策をつなぐ中核設備へ位置づけが変わっています。今後は、導入量、運用力、国内産業基盤の3つが同時に問われる段階になります。
